1号

□帝国学園休憩室にて
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「オレが帝国学園に書類を届けに…ですか?」

雷門中でいつもの午前の練習が終わり昼食をとるために皆が食堂に向かうなか、鬼道は突然久遠監督に呼び止められた。

「昨日響木さんが視察に来られた時に帝国学園宛ての書類を忘れていかれたんだ。連絡を入れたらまた明日でいい、と言われたんだが早い方が良いだろうと思ってな」

久遠監督は相変わらず何を考えてるか分からない表情で書類が入った封筒を見せる。

「それでは頼んだぞ」

鬼道の返事を聞く前に封筒を手渡すと、久遠監督はきびすを返しどこかへ行ってしまった。
手元にはかなりの厚みがある封筒だけが残される。

「決定権は無し、か。せめて形だけでも返事をさせてほしかったな」

*****

帝国学園の長い廊下に鬼道のスニーカーの音が規則正しく響く。
宙に浮く渡り廊下の下には何面ものサッカーグラウンドが見えている。

雷門中も改築され設備もかなり充実してきたとはいえ、やはり帝国とは比べものにならない。
一流の設備と一流の人間。
それが王者帝国と呼ばれる由縁なのだと肌で感じる。

影山が居なくなった後もそれは少しも変わっていない。

「鬼道さん?」

などと感傷に浸っていた時後ろで声が反響した。
現実に引き戻され驚いて振り返る。

「佐久間?」

鬼道はユニフォーム姿の佐久間に歩み寄った。
佐久間は安堵の表情で鬼道を見る。

「よかったです、人違いじゃなくて」

「オレと誰を間違えるんだ?」

鬼道は自分を不思議そうに見た。

「マントを羽織られてなかったのでもしかしたら、と思いまして」

「…ああ、全て泥まみれだったから今は洗濯機の中だ」

「そうだったんですか」

佐久間から思わず笑みがこぼれる。
鬼道は眉を下げ頬を掻く。

「そうだ。鬼道さん、書類と言うのはそれですか?」

「そうだが、何故おまえがその事を知っているんだ?」

鬼道の問い掛けに佐久間は首を傾げた。

「何故、と言われても…オレは久遠監督から連絡をもらってここで待っていたんです。鬼道さんがこちらに来たら書類を受け取ってくれ、と」

「そうか。…まったく、もう少し事前に説明をしてほしいものだな」

顎に手をやり書類を見つめる。

瞳子監督も肝心な指示はほとんどしてくれず、自分たちで答えにたどり着き試合に勝つ事で実力をアップさせていくやり方だった。
しかしどうやら久遠監督のやり方はそれ以上らしい。

「でも、おかげで事をスムーズに運ぶことが出来た訳だがな」

久遠監督の分かりにくい気遣いに小さくため息をもらす。
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