1号

□氷が溶ける日
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まだ日も昇らない早朝、運動部部室棟近くから何かを激しくぶつける音が聞こえている。
そこには大分イライラした様子で壁にボールを蹴り込む不動の姿があった。

「オラァッ!!」

一際激しく蹴り込むとボールは物凄いスピードで跳ね返り、西校舎に叩き付けられた。
ボールが当たった部分は黒く焼け焦げ、煙が上がっている。

「ハッ…ハアッ…」

ひざに手をついて息を整える。
汗が頬を伝い地面に落ちた。

---命令じゃない。チームメイトとして助言しているだけだ---

ギリッと歯を食いしばる。
ひざについた手にも力が入る。

「何がチームメイトだよ。偉そうな事言ってんじゃねえよ…」

一度深く深呼吸すると、ボールを取りに行くため振り返る。

その時視界がカクンッと動いた。
足の裏に石の感触が伝わる。

「チッ!」

何とか踏ん張るが足首が嫌な方向に曲がった。
誰かに見られていないかと周りを見渡し、何事も無かった様に歩きだす。

「ぐっ…!」

その瞬間足に激痛が走った。
立っていられない程の痛みに、たまらずその場に座り込む。

靴を脱ぎ捨て靴下を下げると、足首が腫れていた。

(マジかよ…ただでさえ昨日のダメージが抜けてねえってのに…!)

だんだん痛みが増してきた部位に手をあてる。
明らかに熱を持ち、確実にねんざをしている事が嫌でも分かった。

「お、こんな所に居たのか」

刹那、後ろから声が聞こえた。
聞き覚えのある声に心臓が跳ね上がり、急いで靴下を履く。

「…何の用だよ綱海条介」

バクバクと鳴る鼓動を落ち着かせるため、なるべくゆっくりと振り向く。

「もうすぐ午前の練習が始まるってのに、おまえグラウンドにも来ねえし部屋にも居ねえからよ、監督に言われてオレと円堂で探してたんだよ」

「はっ…貧乏くじ引かされた訳だ」

いつものように鼻で笑う。
しかし綱海には効かない事は分かっていた。

「とにかく急いでグラウンドに…ん?足どうかしたのか?」

綱海は座り込んだままの不動を覗き込んだ。
すぐに不動は立ち上がり靴を自分の方に寄せる。

「どうもしてねえよ。靴に小石が入っただけだ」

トントンッと足を入れそのまま歩き出した。
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