3号

□本物の証
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「ヒロト、大丈夫?」

「え、だ、大丈夫って…何が?」

「今うなされていたことがだよ」

緑川にそう言われ、ヒロトは先ほどまで見ていた夢を思い出した。
夢と呼ぶにはあまりにも生々しい“悪夢”を。

「…オレ、何か言ってなかった?」

「言葉は何も。ただ、凄く苦しそうだった。覚えてないのか?」

「……あ、そう言えば誰かに崖から突き落とされる夢見てたような。あははっ…」

ヒロトは本当のことをみんなに悟られないように、平然を装って答えた。
ヒロトの答えに、周りからはそんなことか、と安堵のため息が漏れる。

「ゴメン、みんな。明日も早いのに起こしちゃって」

「そんなこと気にするなって。何も無くてよかったよ」

そう言って、緑川はヒロトの肩を優しく叩いた。
それがきっかけとなり、集まったメンバー全員に肩やら頭やらをもみくちゃに触られる。
これで帳消しだ、と言う意味だろう。

「じゃあまた明日な。ゆっくり休めよ」

「ああ。おやすみ」

お互いに軽く手を上げ挨拶を交わし、最後の1人を見送ると部屋は静寂に包まれる。
誰も居なくなったのを確認して、ヒロトは小さくため息をついた。

「ヒロト」

「うわぁッ!?」

突然名前を呼ばれ、ヒロトは咄嗟に布団で防御体制をとった。
恐る恐る布団を下げると、声の主はみんなと部屋に戻っていったはずの緑川。
緑川はそろりとヒロトのそばに寄り、何かを差し出した。

「はい、スポーツウォーター。よかったら飲みなよ」

「あ、ありがとう。丁度欲しいと思ってたんだ」

「あとこれは風丸から。そこで預かったんだ」

ヒロトがフタを開け喉に流し込もうとした時、緑川はもう片方の手を差し出した。
受け取って確認すると、乾いた白いタオルだった。

「そっか…。明日風丸くんにもお礼言わないといけないな」

「そうした方がいいよ。風丸、かなり心配してたから」

そう呟いた緑川も、あまり浮かない表情をしている。
そんなことを聞かされ今の緑川を見たら、本当のことは絶対に言えない。

「…じゃあオレ行くから。すぐには眠れないだろうけど、朝練遅れるなよ?」

「ああ、緑川こそね」

ヒロトの返事に、緑川はフッと微笑むと静かに部屋をあとにする。
緑川の足音が遠くなっていくのを聞きながら、ヒロトスポーツウォーターのボトルを握りしめ、タオルに顔をうずめた。


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