3号
□キミにありがとう
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「…オレは鬼道や豪炎寺みたいにちゃんとした言葉でおまえの悩みを解決してやれないからさ。ただ励ますだけが精一杯なだけだ」
「オレにとってはそれが一番嬉しかったんだよ。おまえのたった一言が、いつも心のもやもやを払ってくれたんだ。まるで太陽の光に暖められて氷が溶けるみたいに」
「そ、そんなカッコいいことしてないし言ってないって!」
少し頬を赤らめて円堂が慌てふためく。
そのままの勢いで肩を思いっきり叩かれた。
「いてっ…気付いてないだけだよ。サッカーを続けようって思えたのも、正しい道に引き戻してくれたのも、今こうしてサッカー部員として卒業を迎えることが出来たのも、全部円堂が励ましてくれたからだ。おまえが居なければ、オレはサッカーに出逢えていなかった。ありがとう、円堂」
「や、やめろよ。そんなに誉められると恥ずかしいじゃないか!」
もう一度肩を叩かれた。
的確に同じ位置を狙われ流石にジンジンと痛みだす。
次は『いかりのてっつい』か『イジゲン・ザ・ハンド』が飛んで来るかもしれないから、もう言うのはやめよう。
「…そうだ風丸!サッカーやろうぜ!」
またもや脈絡も何も無い会話。
まあ、このストレートさが円堂の良いところなんだけどさ。
「やろうって言ったって、ボールはどうするんだ?部室開いてないだろ?」
「大丈夫!こんなこともあろうかと…ほら、ちゃんと持ってきてるんだ!」
もしこれが漫画なら“ジャーン!”って言う効果音が付いただろう。
円堂は肩から提げていたスポーツバッグから、よく使い込まれたボールを取り出した。
中学に入る前からずっと円堂の相棒だったサッカーボールだ。
「なるほどな。本当の目的はこれをやりに来たのか」
「ああ!風丸が居たから忘れてたけどな」
にひっと白い歯を見せてボールを撫でる円堂。
多分、円堂と一番仲が良いのはこいつだろう。
…ちょっと悔しいけどな。
「よし、やるか!」
実はオレもサッカーしたいと思ってたんだ。
「サンキュー風丸!」
言うなり円堂はボールを抱えてゴールに走っていった。
オレは制服だったから、上着を脱いでカッターシャツになって、早く来いよと催促している円堂のあとを追った。