1号

□お互いの“あいつ”のため
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「不動!」

少ししてあいつが走ってきた。
両腕には大事そうにあのぬいぐるみが抱えられている。

「ハッ。それで良いのかよ?おまえの手で妹ちゃんに取ってやらなきゃいけないんじゃねえのか?」

「…今回はこれで我慢してもらおう。あのままではオレの手持ちが先に底を突いていた」

あいつは少しためらい気味にぬいぐるみを見て、困ったように笑った。

「オレにはおまえンとこの兄妹関係がどうなろうと関係ねえからどうでもいいけどな」

オレはあいつに背を向けて歩きだす。
するとあいつは行きと同じようにオレの後ろを付いてきた。

「おまえそれやめろよ。どう考えたって怪しいだろ」

すぐに振り向いて詰め寄る。
あいつはさっきオレが大声だした時と同じような顔になった。

「仲良く見られるような歩き方は嫌だと言ったのはおまえの方だろう。だから他人のふりをしつつ付いて来たんじゃないか」

「やり方がもっと他にあんだろうが!もうめんどくせえから普通にしろ!」

「…わがままなヤツだな」

「どっちがだよ!」

あいつは納得がいってない顔で渋々オレの隣に並んだ。
妙に間が開いてるけどさっきよりは全然マシだ。

「…不動」

しばらく無言で歩いた後ボソッとあいつが呟いた。
しかし次の言葉を待っていてもあいつは言葉を続けない。

「…何だよ」

遂にオレが折れて問い返す。
それでもあいつは口をつぐんだままだ。

「何だよ。言いたい事があるから話し掛けてきたんじゃねえのかよ?」

「その…色々と助かった。ありがとう」

大分間があって更に小さな声であいつがそう言った。

「お、おまえに礼言われるとかとか気持ち悪いんだよ。それにオレは普通にストレス発散して、おまえの金でクレーンしただけだろうが」

「…そうか。そうだったな」

あいつは一瞬驚いた顔をして、それからフッと笑みをこぼした。

「…む、大変だ。このままでは昼食の時間に間に合わない」

何気なく携帯を開いたあいつは急にそう言い出した。

「だろうな。結構時間くっちまったし」

「何をしているんだ。皆を待たせるわけにはいかない。早く戻るぞ」

「は?」

いきなり司令塔モードに入ったかと思うとあいつはオレの腕を掴んで歩くスピードを上げた。

「お、おい!引っ張んな!」

「だったらオレと同じ歩幅で歩け」

「ふざけんな!それがここまで連れて来て貰ったヤツの態度か!」

「それとこれとは話が別だ」

そのあとも散々文句を言ったが全部あいつにぴしゃりと一刀両断される。

あの時変な情け出してぬいぐるみ取ってやるんじゃなかった。
連れて来てやるなんて思うんじゃなかった。
そもそもゲーセンに行ってストレス発散しようなんて思うんじゃなかった。

「もうおまえとは絶対にどこにも行かねえからな!」


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