1号
□お互いの“あいつ”のため
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「…こんな所にゲームセンターがあったのか」
あいつが建物を見上げて感嘆のため息を漏らした。
あの後オレの3歩ぐらい後ろを付いてきやがって、端から見たら喧嘩したんだけど帰る方向が一緒だから、かなり気まずく歩いてるカップルみたいな感じだったと思う。
恥ずかしいったらありゃしねえ。
面白半分で声なんか掛けるんじゃなかった。
「っていうかおまえ地元の人間だろ?この辺の地形ぐらい全部把握しとけよ」
「仕方ないだろう?今まで来る必要がなかったんだから」
ゲーセンが必要無い人生か。
…幸せな人生だな。
オレは小さく舌打ちをして、まだビルを眺めてるあいつをほっといて自動ドアをくぐる。
その扉の開閉音であいつも気付いて続いて中に入ってきた。
扉が閉まった途端ざわざわとした雰囲気や目がチカチカする照明と音に包まれる。
店内は街中と同じく人が多い。
「クレーンは向こうだ。真っ直ぐ行けば嫌でも分かる」
「…ああ。ありがとう」
オレがせっかく教えてやったのに、あいつはきょろきょろと辺りを見回して雰囲気に圧倒されているみたいだった。
もしかしてゲーセンの場所が分からなかったんじゃなくて、ゲーセンそのものを知らなかったんじゃないのか?
…まあいい。
オレはオレの目的を果たすだけだ。
フラフラと歩き出したあいつを見届けてから目当ての場所に向かった。
歩きながらポケットの小銭を触る。
入っている軍資金は百円玉一枚。
これ以上出す気もねえし、出す必要もない。
「うおぉおッ!10連勝!」
「ハッ!こんくらい楽勝だっての!」
「カラスさん流石ッス!!」
辺りを見回して物色するとあるゲームの周りに人だかりが出来ている。
中心はあのピンク髪の黒フードか。
…今日の相手はあいつだな。
「次、オレと対戦してくれよ」
オレはそいつの反対側に座って百円玉を入れた。
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「お、おい!誰か挑戦するヤツいねえのかよ!?」
「そんな事言うならおまえが行けよ!」
ギャラリーにどよめきが広がる。
オレの画面には相手のコンティニューを待つカウントダウンが始まっている。
「なんてヤツだ…カラスさんを無傷でダブルKOしたと思ったらそこから25連勝するなんて…!」
「何者なんだよあいつは…ッ!」
最初に倒したピンク髪とその仲間の声が聞こえる。
そんな盛り上がるほどあいつ強くなかったけどな。
誰も挑戦して来る気配はない。
今回はこれで打ち止め、か。
オレは席を立って骨を鳴らす。
避けるように輪が開いて、オレはその場を離れた。
ギャラリーは最後までチャレンジのなすりつけ合いをしていたが、GAME OVERが表示された瞬間蜘蛛の子を散らすように居なくなった。
「さてと…」
携帯を開いて時間を確認するとここに来てから30分くらい過ぎている。
…あいつの様子でも見に行ってやるか。
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