5号

□特訓と思い出
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「ここはいつ来てもいい景色だな…」

サッカーボールを両手で持ちながら、立向居は夕暮れの河川敷を眺めていた。
時折吹く優しい風がほおを撫でていく。
この河川敷をのぞむグラウンドは、10年前と比べてだいぶ整備はされたものの、流れる空気は変わっていない。
昔も今もサッカー少年たちの汗と、涙と、熱気が渦巻いている。

「立向居!」

そんな風になつかしさの余韻にひたっていると後ろから急に名前を呼ばれ、我に返って声の方に振り向く。
そこにはなつかしい見知った顔が立っていた。

「木暮!」

「おー!久しぶりじゃん!」

木暮が笑顔を見せながら階段を駆け下りる。
それに合わせ立向居も木暮の元へ駆け寄って行った。

「会社帰り?ずいぶんと早いんだね」

「俺残業しない主義なんだよね。そういう立向居はどうなんだよ?練習はいいのか?」

「俺も今日はもう終わったんだ。プロってそんなに何時間も練習しないんだよ」

「え?いいのかよそれで」

「トレーナーさんの指示には従わないと。…まあそれはあくまで全体練習の話で、あとは個人の自由、って感じなんだけどね」

「なるほどなー。おまえ、どうせ毎日限界まで特訓してるんだろ?」

「ははっご想像にお任せするよ」

図星だな、と木暮は思った。
ボールを持つ手に目を向けてみればいたるところに怪我の痕が見える。
グローブをはめている上でのこの傷、木暮の想像している何倍も立向居は努力を重ねているのだろう。

「なあ立向居、このあとここで練習してくのか?」

「いや、この景色を見たらホテルに戻ろうと思ってたんだ」

「ならちょっと話そうよ。せっかく久しぶりに会えたんだからさ」

「そうだね。夕食の時間までなら」

立向居が腕時計で時間を確認しそう答えると、木暮は笑顔で相づちを打って近くのベンチに走って行きおまえも早く来い、と手招きする。
そういうところ変わらないな、と思いながら立向居もベンチに向かった。


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