1号
□お互いの“あいつ”のため
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「体の酷使は思わぬ怪我に繋がる。練習は昼過ぎからだ」
朝グラウンドに集まって開口一番監督から言われた言葉。
確かに朝から気温が高くて、一日中やったら体力も集中力も続かないのは分かる。
だけど今は少し無理してでも練習しなきゃいけない時じゃねえのかよ。
でも他のヤツらも監督と同じ考えで、自主練習を始めるヤツもいたがほとんど気晴らしに行っちまった。
まぁオレもその後者の一人なんだがな。
(…それにしてもうるせえな)
周りを見渡せばハイテンションで騒ぐガキ共に暑苦しいバカップル、井戸端会議のおばさんなんかでごった返している。
世間じゃ日曜日だから人が多いのは当たり前だが、他にも行く場所あるだろうが。
完全に選択をミスった。
こんな事なら日陰のある場所でリフティングでもしてた方がよっぽどマシだったぜ。
「…そうですか、ありがとうございます」
その時聞き慣れた声が聴こえた。
声の方を向くと赤いマントが視界に入った。
そんなおかしなファッションセンスをしてる人間はオレが知る限り一人しかいない。
鬼道有人だ。
あいつは誰かと話をしていたが、すぐにその相手は軽く会釈すると去って行ってしまった。
「よお、モテるねぇ。それともナンパか?」
冷やかしてやろうと思って近付く。
オレに気付いたあいつは眉根にシワを寄せた。
「どちらも違う。道を尋ねていただけだ」
「そうかよ」
相槌を打っておいて疑問が沸き上がる。
道を尋ねていたって事は何か目的があるって事だ。
だけどここは東京の、しかも稲妻町の市街地。
わざわざ道を尋ねる必要があるのか?
「にしても、おまえが自主練やらずに一人で居るなんて珍しいな。いっつもぞろぞろと集まってんのによ」
「ああ、買いたい物があったからな。そう言うおまえも一人か?」
「…はっ。オレは仲良しごっこは御免なんだよ」
皮肉言ってんのに真面目に答えて更に他人の心配かよ。
からかい甲斐のねえ野郎だ。