1号
□大切なもの
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ブツリ、と何かが切れる音がした。
気にはなったが今は練習試合の真っ最中で、他事を考えていい加減な行動をするなんてチームにも相手にも失礼だ。
何よりオレ自信が許せない。
だから気にしない事にした。
今は目の前の試合に集中しよう。
そう思ってオレはいつもと変わらずプレイをした。
そして練習が終わって着替えている時だった。
ユニフォームを脱ぐ為に袖から腕を抜こうと下を見たら、胸元に違和感を感じた。
理由はすぐに分かった。
いつもなら上着を脱いですぐに視界に入ってくるはずの、夕香から貰ったあのペンダントが無いんだ。
ポケットや体を一通りまさぐってみるも見当たらない。
サアッと血の気が引いていく。
さっきの音の正体はこれだったのか。
オレは自分で自分を殴りたくなった。
あれだけは何があっても落とした時点で気付くべきだったのに。
気付かなければならなかったのに。
体中から嫌な汗が吹き出す。
動揺しすぎて鞄のファスナーがまともに開けられない。
「豪炎寺、どうかしたのか?」
その時後ろから円堂に声を掛けられ思わずビクッと肩がすくむ。
「…何でもない。少し疲れただけだ」
そう答えると円堂はそっか、と特に追求する訳でもなく自分の着替えに戻った。
「…じゃあオレは一度家に戻る。夕飯までには帰るから」
手早く上下ジャージ姿になり鞄を背負い、逃げるように更衣室を後にする。
こいつらに気付かれる訳にはいかない。
ただでさえ皆疲れてるのに、オレが気落ちしてるのを気遣わせて余計な心配をかけさせたくない。
「…円堂」
「へっ?何だ?」
「何か言いたげな顔だな」
「いや、豪炎寺のヤツいつもと様子が違う気がしたんだ。やっぱり何かあったのかって思って」
「うむ…確かにそうだな…」
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