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□願うのはただ、あなたの幸せ
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願うのはただ、あなたの幸せ






いつのまにか、雨が降っていた。

濡れる窓を見ながら、この人の言った通りになったわね、とリザは小さく息を吐いた。
外は雨で寒そうだったが、リザは身体に残る熱の余韻と背後からきつく絡みついている体温とで暑かった。
しがみつくようにリザを後ろから抱きしめたまま、ロイは黙って瞳を伏せている。
痛みを必死で堪えているのが伝わってくるその痛々しい沈黙に、リザは覚えがあった。

なぜこうもこの人を苦しめることばかり起きるのだろう。
いくら私が手を尽くして彼を守ろうとしても、それを嘲笑うかのごとく隙間からこぼれるようにして残酷な現実が彼を襲うのだ。

その度にリザは己の無力さに憎しみを感じる。
コントロールのきかなくなった感情が暴走して、身勝手極まりない怒りさえ込上げてくる。

なぜ、こんな急に逝ってしまったんですか?この人にはあなたが必要なのに!
この人を大総統にすることを、二人で目指していたではありませんか。
途中で投げ出さないで下さい。あなたがいなければ困るんです。
いつだって、私たちはあなたを頼ってきました。私一人ではこの人を支えきれません!

「…っく」

リザは我慢していた涙が零れ落ちるのを止められなかった。
ロイはそれに気づくと、抱きしめる腕にさらに力を入れた。



リザが落ちつくのを待って、ロイは重い口を開いた。

「リザ…軍を辞めないか?」
「―っ!?」

その言葉に驚いたリザは勢いよくロイを振り返る。
ロイの苦渋に満ちた顔を、食い入るようにリザは見つめた。
向かい合うように彼女を抱きなおし、ロイは言葉を続けた。

「怖くて仕方がないんだ。もう君まで、失いたくない。
どうしても…君だけは失えない。 軍を辞めて、私と結婚して欲しい」
「…できません」
「リザ!!頼むから」

ロイの言葉を遮ってリザは言った。

「私が軍を辞め、家にいればあなたは安心かもしれません。
 ですが私はどうなるんです?毎日毎日、軍にいるあなたの身を案じ、あなたを失うのではないかという恐怖の中で暮らせというのですか? そんなことは耐えられません」
 
残酷なことを言わないで下さい、とリザは目を伏せた。

「…すまない。だが、一緒にいても私が先に死ぬかもしれないぞ?」
「そんなことはあり得ません。一緒にいたら、必ずあなたを守りますから先に死ぬのは私です。
 万が一守りきれなかったときは、そのときは、すぐにあとを追いますから」

リザの返答に、ロイは心底嫌そうな顔をした。

「君が先に死ぬのは嫌だ。私より先に逝ったら…」
「どうします?」
「君を人体練成するためだけに生き続けるか、私もあとを追うかだ。どっちがいい?」
「両方やめて下さい。私が死んでも、先に進んでください」

君のほうが残酷だよ、とロイは嗤った。

「君がいないと、先に進んでも仕方がないんだ。
だから、やめさせたいなら、私より先に死ぬんじゃない」
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