マリオ短編
□ある夜に(ディメL)
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ある夜に
「ぶええ〜っくしゅん!」
暗黒城の屋上で、盛大なくしゃみ。
黒ずくめに緑の帽子の男、ミスターLのくしゃみだった。
「う゛〜・・・ディメーンの野郎・・・、
こんな寒い夜に待たせやがって・・。」
悪態を垂れるも、震えているので様にならない。
そもそも、寒がりの彼が何故こんな寒い場所にいるのか、というと。
「ボンソワ〜ル、エリリン♪」
ふよふよと宙に浮いて、ピエロ男の登場。
彼は自称魅惑の道化師ディメーン。
「ボンソワールじゃねえよ!
こんな寒い日に待たせやがって!」
怒声を上げるミスターL。
まあしょうもないことだろう。
何しろ、彼が寒さに耐えて屋上にいるのは、
ディメーンが彼を呼びだしたためなのだから。
「んっふっふ〜♪ごめんよエリリン。
準備に時間がかかっちゃってね」
「準備?」
聞くより早く、ディメーンが指を鳴らす。
パチンという音とともに空間がゆがみ、
中から巨大な筒のようなものが現れる。
「…なんだ?これ」
「エリリンは知らないのかい?
天体望遠鏡さ。」
ディメーンはミスターLのすぐ隣まで来ると、空を指差した。
「この夜空のはるか遠くに広がっている星を、至近距離で確認できるんだよ♪」
そう言って、ミスターLの手を取る。
「さあ、のぞいてごらん。
今日はいつになく星がきれいだよ?」
「お、おう・・・」
言われるままに、筒をのぞきこむ。
「うわぁ・・・!」
そこには、いつもの何倍も美しく輝く星があった。
思わず言葉を失うミスターL。
「きれいだろう?
でもね、これはすべて、はるか昔の光。
僕らが見ているのは、過去の光でしかないのさ」
ディメーンが少しだけ切なげにつぶやいた。
「・・・だとしても」
「うん?」
不意に、ミスターLが天体望遠鏡から目を離す。
「これが、過去の光だとしても。
俺達がそれを見ていることが『今』だ。
それでいいんじゃねえのか?」
思いもよらない言葉に、ディメーンはどう反応していいか迷った。
今ここで星を見ていることが、『今』。
当たり前だけれど、その言葉はディメーンにとってはすごく意外なものだった。
「お前も見ろよ。
すっごくキレイだぜ?今日の星!」
「・・・・そうさせてもらおうかな。
せっかく『今』、ここにいるんだからね」
空に向かって伸びる望遠鏡が一つ。
それをのぞきこむ人間が二人。
冬の空の下で、『今』を過ごす人間が、ふたり。
夜が明けるまで。