記念・企画Novel

□【「ただいま」「おかえりなさい」】
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※水戸部家の部屋割り等を捏造しております。











――これは、太陽が眩しい真夏の一幕。



「おっじゃましまーーっす!!!」
「……。」
「だっはぁー!今日も疲れたなぁ〜」
「……。」
「え?その割に元気そう?んな事ないって!もう一歩も動けない」


夏休み真っ盛りの8月某日。
だが、バスケ部にそんなものは無いに等しい。
ウォーミングアップと称して太陽が照り付けるアスファルトを走り、熱の篭った体育館でボールと相手選手を追い掛ける毎日。

今日も今日とて、トレーニング(何故か張り切ったカントクにより3倍……太陽も灼熱地獄なら、相田リコの気合いも灼熱だった)を熟し、小金井慎二はヘトヘトになりながら帰路に着いた。
………否、寄り道に水戸部凛之介の家へやって来た。
長期休みという事もあるのだろう。
普段は大勢の弟妹達で溢れるこの家が静かだ。

「……。」
「ん、オッケー。先に水戸部の部屋行ってんな!ほい、カバン。一緒に持ってっとくから」
「……。」
「良いって良いってこんくらい!あ、クーラーつけて良い?」
「……。」
「おう!さんきゅー」


勝手知ったる水戸部宅。
小金井は水戸部の部屋へ。
水戸部は冷たい麦茶を淹れに台所へ向かった。

綺麗に片付けられた水戸部の部屋―――正確に言えば“お兄ちゃん部屋”。
大家族である水戸部家では個人個人に部屋が与えられるのではない。
成人男性組・成人女性+年少組・中高男子組・中高女子組に分けられている。

つまり水戸部は弟と同室だ。
年頃男子の部屋なんて散らかっていると思われがちだが、そこは『誠凛のオカン』と呼ばれる皆の“凛兄ぃ”だ。
整理整頓など朝飯前。
敷かれたカーペットがちゃんと見える床に座り、設定温度を26度にされた冷房を点けて水戸部がやって来るのを待つ。


―――ガチャリ……


小金井が待つ自室に来た水戸部の手には何も持たれていなかった。
台所に麦茶を淹れに行ったはずだが……。

「………。」
「あ、そなの?まぁこんだけ暑かったらなー……ちび達も喉渇いてたんだろ。冷蔵庫からっぽかぁ〜……じゃあ今から買いに行く?」
「……。」
「マジで!?」
「………。」
「や、さっきのは何つーかさ、その……まぁ…まだ足ダルいけど」

“一歩も動けない”と小金井が先程ぼやいた言葉を受けて、水戸部は自分が飲み物を買いに行くから待っていろと告げた。

「ホントに良いの?オレ甘えちゃうよ?」
「……。」
「……分かった。留守は任せろ!」
「……。」

小金井の返事に頷き、スポーツバックから財布を取り出して水戸部は部屋を……家を出た。


「…………。」


(暇だなー……)


いくら勝手知ったるとはいえ、住人が誰も居ない家でゴソゴソと出来るワケもなく……小金井はゴロリと寝転んだ。

遠く涼やかに聴こえる風鈴の音。

快適な温度。

いつも隣に居てくれる人の匂いが染み付いた部屋。

まったりとした空間に疲労困憊の身体は溶け込み、落ち着き過ぎてしまう。
ゆるりと落ちてくる瞼を閉じてしまおうと逆らえなくなってくるが、留守を任された身として寝るわけにはいかない。

帰ってくる彼に、言わなければならない言葉があるのだから。
言われなければならない言葉があるのだから。

その決意を、使命を脳裏に呼び起こし、寝てしまわないように目を擦る。

「早く帰ってこいよ水戸部ぇー……眠いし喉も渇いたぞーー…………」



―――ガチャ……



ジャストタイミングとはこういう時に使うのだろう。
玄関扉の開く音、、、尤もそれだけでは水戸部だとは判断出来ないが、次いで静かに歩く足音が耳に届けば“彼”だと核心出来た。
年少組ならもっと元気でドタバタと走る音になるはず。
成人組や兄弟の中では一番顔見知りと言えるだろう妹の千草は、彼と同じく足音は静かだが玄関扉を潜った瞬間に大きく帰宅を告げる声が聞こえるはずだ。

そうこうと思考を巡らせていると部屋の扉が開かれる音が響いた。


「……。」
「んー、ごめん。やっぱ水戸部ん家居心地良くってさぁー……すげぇ…寝そうになってた」
「………。」
「ダイジョーブ。そんな簡単に風邪引くほどヤワじゃないから」
「………。」
「もー、水戸部は心配性だなホント!……お、サンキュ。後で金返すから」
「………。」
「あ、そだ。言いそびれてた。水戸部!







おかえりなさい!」
「………。(ニコッ)」



―――水戸部は喋らない。
それでも、確かに【ただいま】と。
そう聴こえた。








◆◆◆◆◆◆

水金の日おめでとうございます!!!!!
2013年も参加させて頂けました事、主催の四葉さんへ心より御礼申し上げます。

喋らない水戸部さんに相変わらず翻弄され、頭を抱えました(笑)
故に小金井のセリフがやけに説明口調だったりしますが……すみません;;

では!
誠凛のほのぼの夫婦の永劫の幸せを願って!!


2013.8.5.月 作品提出。
2013.8.6.火 サイト掲載。




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