記念・企画Novel
□【レグルスを見上げて】
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【Regulus.】
学名――Cor Leonis.
『獅子の心臓』の意味を持つその星は、一等星の中で最も暗い光を放つ。
「火神君、お風呂ありがとうございました」
「おう」
某日。
火神が暮らすマンションへ黒子は泊まりに来ていた。
八月も下旬に突入したこの時期に、火神の夏休みの宿題が終わっていない事を知ったカントクにより完遂命令が下されたのだ。
「少しは進みました？」
「………。」
「……………………火神君」
「や、その…えっと……せ、設問１の一番最初のは解いたぜ！」
「…先はまだ長そうですね」
『解いた』と言われた設問１の一問目の回答欄を見れば残念な事に間違っていた。
黒子が風呂に入っていた約２０分。
皺の少ないであろう脳をフルに活用し、精一杯悩んだ火神の努力は無惨にも消しゴムで消されてしまった。
火神自身も自分の出来てなさ具合が分かっているのだろう、バツの悪い表情をしている。
彼の家なのに居心地が悪そうだ。
「だぁあーっチックショウ何なんだよ！星座なんざに興味ねっつの!!生きてくのに必要ねーだろ!!!」
「勉強嫌いの典型的な言い訳ですね。生きていく上では確かに星座は必要ないかもしれませんが、宿題を提出しないと高校生活や部活に支障を来たすのでちゃんとして下さい」
「ぐ…ッ」
溜息と共に吐き出された正論に、火神は押し黙った。
確かに彼の言う通り、将来その筋の専門的な道に進まない限り、学校で教わる殆どの授業は生きていく上で必要ない。
例えば数学の二次関数。
例えば古典の百人一首。
例えば音楽のリコーダー。
社会のどの辺りに応用させるのかも判らない。
その分野・教科を好きな奴だけやっていれば良い。
『日本文学の常識だろ』云々を言われ恥をかいたとしても、その仕組みや意味を知らなくても生きていける事が大半だ。
大半なのだが、そういうこっちゃないのである。
「もし火神君が宿題確認テストでダメダメな点を得ってしまったら、補習とか課題とかで部活時間が減って、君が居ない分の連携練習ができなくなるじゃないですか」
「う…」
宿題確認テストは当然だが筆記だ。
学力テストの様にマークシート方式ではない為、最終兵器・緑間の鉛筆は使えない。
「だから火神君が勉強出来なくて放置するのは、もはや君だけの問題じゃないんですよ」
「〜〜〜ああ゛ぁあもぉおーっわーったっつの！チクチクチクチク突いてくんな!!やるよ、やりゃあ良いんだろッ!!?見てろ？宿題確認テスト、お前より良い点得ってやっからな！」
「その意気です。頑張って下さい」
黒子の正論精神攻撃が効いたらしく、火神は宿題に向き合った。
内心『自分もそんなに優秀というワケでなく到って普通だが、火神よりは勉強が出来る』と思った黒子だったが、折角出してくれたやる気が萎むと困るので黙っておいた。
眉間に皺を寄せ、問題と睨めっこしている火神を ガラステーブルにペタリと頬をくっつけて見上げる。
風呂上がりの火照った身体に、その冷たさが心地好い。
勉強面ではフォローのしようが無い程に残念な火神だが、バスケに関しては部にとってなくてはならない大きな存在であるという事は誰もが分かっている。
―――『キセキの世代を』ブッ倒して日本一になる!!
火神が。
火神と黒子が、掲げた誓い。
まだまだキセキ達の光には遠く及ばないかもしれない。
まだまだ輝きが足りないかもしれない。
それでも“自分の眼に狂いはなかった”と、黒子は自信をもってそう断言出来る。
どんなに幼く淡い光だったとしても、いつか何よりも目映く光る事を知っているから…。
「…早くバスケがしたいです」
「ンなの、オレだって同じだっつの」
「気長に待ってます。君―光―が居ないと、ボク―影―は成り立たないんですから」
「早くっつったり気長っつったり、どっちなんだよ」
「……極力早くお願いします」
「んじゃあお前も協力しろよな」
「…はぁ、どれが判らないんですか？」
テーブルから頬を離し、火神のワークブックを覗き込む。
文字こそ埋められているものの、やはりそれらは殆ど間違っていて…。
黒子はもう一度溜息をついて、自身もシャーペンを手にしたのだった。
獅子座を象り光る星。
――Cor Leonis.
ある時期により、太陽の通り道として重なり合い輝く。
『獅子の心臓』の名を持つそれに付けられた もう一つの呼び名、
――Alpha Leonis.
『小さな王』
と、そう記されている。
火神の生まれ星座である獅子座を象徴するその星こそ、黒子にとっての心臓であり、支えるべき…何よりの王。
◆◆◆
風華香夜様主催の火黒企画『ライオンと影ぼうし』様へ捧げます。
補足としまして、学名的にはAlpha Leonis.の方がメジャーなんですが、話の都合上、Cor Leonis.を持ってきました←
香夜様、今年も素敵な企画に参加させて頂き ありがとうございました！
また、ここまで読んで下さった皆様へも心より感謝申し上げます。
誠凛の光と影がいつまでも睦まじくありますように。
2012.10.8.月 提出
2012.10.11.木 UP