記念・企画Novel

□【好きと言われて恋に気付く】
1ページ/1ページ




じりじりと全身が熱い。
焦がれる程に。
焦がれる度に。








「ふへぇえー……あっぢぃいい〜…」


学生ならば絶賛夏休み中である筈の八月。
だが殆どの運動部には関係ないだろう。
それは誠凛高校バスケ部も例外なくそうだった。

蝉の大合唱に混じって、溜め息と一緒に弱々しく吐き出された先程の台詞は小金井のもの。

室内スポーツとはいえ、この季節はどこに居ても暑い。
直射日光は当たらないが、逆に風の出入りも少ない上に目まぐるしく動き回る為に身体は火照る。

休憩中の現在。
換気がてら開け放たれた扉付近に座り、冷やしたタオルを首筋に充てて涼む小金井に近寄る一つの影。
それは、誰よりも彼と仲の良い人物だった。

「あ、みとべぇー」
「………。」
「うん、大丈夫だいじょーぶ。ほら、オレ テニスやってたし、暑い中走り回るのは慣れてるよ」

寡黙、を通り越して一切喋らない水戸部。
中学時代からの付き合いもあるのかもしれないが、会話を成り立たせる事が出来る唯一の存在と言っても過言ではない小金井。
だからなのか、二人は自然と一緒に居る事が多かった。

「………?」
「このとーり、ちゃんとスポドリ持ってる!」

ボトルを相手へ見せながら、自分の物とは違うバッシュを視界の端に捉えると、小金井は無意識にか心臓部を(正確にはTシャツだが)をギュッと掴んだ。
正常なリズムで鼓動を刻む筈のそこが、少しばかり早い気がする。

「……?」
「へ?あ、ごめんごめん!何でもない!なんかたまーーに心臓が肋骨に食い込んで“痛っ”てなる時ない?あれ」
「………。」
「相変わらず心配性だなぁ水戸部は。根っからのオカン気質〜」
「……?」
「気配り上手で優しいってコト!」

それが自分だけに向けられれば良いのに。
ふとした時にそう思ってしまった事が小金井にはあった。
その瞬間、彼は自分自身に軽く失望した。
水戸部とは仲が良いが、決して自分のモノなどではない。
独占権など持っていない自分が、優しい彼をそんな風に見てしまった事に。

「……?」
「んーん、何でもない」
「…。………。」
「えー、そっかな?」
「…………。」
「でもそれ、何か自画自賛っぽくない?オレの良いトコなら水戸部が知ってくれてるし…別にいーよ」
「………。」
「!…な、何だよ急にー!なんか照れるじゃん」
「…?」
「ぁ、う…えっと…その、あんがと。水戸部にそう言われんの、何か嬉しいや」
「…?………。」
「お、おうっ、これからも宜しくな!」
「………。」
「え、マジ!?水戸部が作ったやつ!?オレまだ食べてない!」
「………。」
「だよね!火神に全部食べられる前にちょっと行ってくるっ!!」

だれていた身体を起こし、水戸部と、首筋を冷やしていたタオルをその場に残して小金井はベンチまで走っていく。

暑くて火照った身体は、今は別の熱で火照っていた。
その『別の熱』の原因や仮説を、小金井自身何となく気付いている。
少し前から。
否、もしかしたらずっと前から“そう”だったのかもしれない感情に。

だからこそ、あの時。
独占欲というものが生まれたのかもしれない。
いま現在感じているこの気持ちと共に…。



「気配り上手で優しいってコト!」

「(……。オレは小金井の方が気配り上手で優しいと思うな。だからこそ一年生達も懐いてるんだろうし)」

「えー、そっかな?」

「(そうだよ。自分の良い面は自分で認めてあげなきゃ、自分が可哀相)」

「でもそれ、何か自画自賛っぽくない?オレの良いトコなら水戸部が知ってくれてるし…別にいーよ」

「(…小金井のそういう所、心配にもなるけど…好きだよ。なんだか落ち着く)」

「!…な、何だよ急にー!なんか照れるじゃん」

「(本当の事だけど?)」

「ぁ、う…でも、えっと…その、あんがと。水戸部にそう言われんの、何か嬉しいや」

「(そう?なら、オレも嬉しいな。これからも宜しく)」

「お、おうっ、これからも宜しくな!」




(こ、これからどう宜しくしたら良いんだろーっ!?)



走り去った背中を、水戸部が小金井と同じく火照った眼で見ていた事も、どんな感情で冷やしタオルを握っていたかも、小金井は知らない。







◆◆◆

両片想いな感じの二人、です。
恋人を通り越して熟年夫婦のイメージがある水金なので、こんな雰囲気の話を書いたのは新鮮でした。

今年も参加させて下さった主催の四葉さん、ありがとうございました!


2012.7.29.日 提出
2012.8.6.月 UP




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ