記念・企画Novel

□【吐息すら魅惑の低音】
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誰も水戸部の声を聴いた事がない。



それは同中だったオレも一緒。


だけど、


だけどオレには



“音”じゃない水戸部の声が聴こえるんだ。



それは、心配性の水戸部がハラハラしてる時とか。
ほっ…としてる時だとか。
試合中の緊迫してる時だとか。
妹ちゃん達を見守ってる時とか。

もっともっともーーっと沢山!
言い切れないくらい、水戸部の声を聴くチャンスや瞬間はあるのを、オレは知ってる。


だからオレには聴こえる。
水戸部の声が。

日向や伊月や、カントクだって知らない。
それはオレだけの特権。








「みっとべー!帰ろうっ」
「…………。」
「んぇっ?マジで?」


水戸部は喋らない。
そう思ってる周りには、オレが一人で喋ってる様に思うかもしれないけど違う。
水戸部とオレはちゃんと“会話”してる。

今日はカントクの都合で部活はなくて。
だから掃除当番じゃないオレ達は普通に授業終わりに帰れるはずだったんだけど……水戸部は違うらしい。
何か委員会の集まりがあるんだって。


「そっか…でも、そんな長引かないよな?」
「…………。」

『…たぶん』って、水戸部が云うから

「んじゃあオレ待ってるよ。一人で帰ってもつまんないし!」

そう答える。

「…………?」

『いいの?』って水戸部がまた聞いてくるから…

「そんかし、折角早く帰れんだから水戸部ん家行ってい?久々に水戸部お手製のご飯も食いたいし」

ちょっとオチャラケて返せば、水戸部はニコッて笑ってくれた。
それは『いいよ』って言葉と同義で。

「じゃあ早く行って来なよ。ここに居るから」
「………。(コクリ)」

小さく頷いて、水戸部は教室を出ていった。
今日に限って漫画とかの暇潰しの道具を待って来てなくて…特にする事がないオレだけど、教室に留まる以上 当番の奴らの邪魔になるワケにもいかないから掃除を手伝って、さっさと机を並べて自分の席に座る事にした。

(水戸部、早く帰ってこないかなー?)













―――……て、



(ん……んぅ…?)



何だろ。
何か…呼ばれてる?気が、する。

あー、そっか…


(水戸部待ってる間にオレ寝ちゃったんだ…)


水戸部が戻って来たんだろーなって分かっててもまだ眠くて。
頭は動かない。

そしたら返事をする前に次、身体が優しく揺らされて……




―――…コガ、起きて




さっきよりも耳元で“声”が聴こえて。
囁かれたその瞬間、背筋にゾワワッ?…ってか、ゾクゾクッ?…みたいな感じのが走って。
眠気なんて一気に醒めちゃって、ガバッと起き上がった。

「…っ!?ぁ、み、水戸部…っ?おかえ、りっ!」
「?」
「な、なんでもない!」

『どうしたの?』って聞いてくる水戸部に焦って応える。
彼は不思議そうな顔をしてるけど、オレはそれどころじゃない。
心臓が、なんか……


(ば、バクバクして痛い……っ)


「…?;;(オロオロ)」
「や、ホント何でもないって!大丈夫だからホラッ!早く帰ろーぜ、オレ腹減っちゃった!」

何がどうしてどうなって何でオレが焦ってるのか分かってない水戸部は、不思議そうだった表情から心配そうな表情に変わった。
それを誤魔化すように、机横に掛けてあったカバンを慌てて引っ掴んで教室を出る。

「…?」
「ホラ水戸部ぇー!置いてっちゃうぞーっ!!」
「!…っ;;」

『待って』って、追いかけて来た水戸部と並んで廊下を歩く。
少しだけ視線を上げて。
チラッと、彼の顔を見る。
人の気も知らないで涼しそうな顔して歩く水戸部がちょっと恨めしい。
…まぁ、オレが勝手に取り乱されただけだけど。

「?」
「んーん、何でもない!」

視線に気付いたのか『顔に何か付いてる?』って首を傾げてる。
水戸部には絶対教えてやんない。
水戸部の“声”に、息遣いに…ドキドキしたなんて。


(さーってと、今日の晩御飯はなーにっかな〜?)





無理に違う事考えようとすんのも…結構疲れるなぁ。







◆◆◆

この度は素敵な企画に参加させて頂きまして、有難うございます。
にも関わらず…提出期限を大幅にオーバーしてしまい申し訳ありません…!!

主催の四葉さん、そして水金愛の皆様に捧げます。
水金の日、おめでとうございます!!!!!


Go straight 千晶 拝。



2011.8.5.金 提出
2011.8.6.土 UP




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