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□【しょっぱいケーキ】
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今日は小堀の誕生日だ。
付き合って、初めて迎える誕生日。
だから何かしてやりたいって想ったけど……



「なんでこーなるんだ……」


料理は出来ない。
裁縫はボタン付けも出来ない。
洗濯…するのは所詮洗濯機。

自分が女子らしい事が何も出来ない事は分かっていたけど、本を見ながらでも出来ないなんて。

目の前には今の自分の気持ちの様に萎んだ…………ケーキ。




―翌日―




上手く出来たとは言えないけど、自分にしたら上出来な方だ。

何度も何度も作り直して。
材料が無くなったら24時間営業のスーパーまで買いに行って挑戦して…やっと出来たソレを持って登校する。
保冷剤は入れてあるけど、ナマモノだし朝練前かその後には渡したい…と思う。

「はぁ…」
「森山セーンパイッ!朝からなに溜息ついてんスか?」
「!…き、黄瀬」


体育館に入らず入口で立ち竦んでたら、後ろから声を掛けられて振り返ると2つ下の後輩が立っていた。

海常バスケ部エースの黄瀬涼太。
モデルやっててイケメンだけど、色々残念なトコがあるからカッコイイより可愛い系。
だからオレの好みじゃない。
……まぁ、いつだって小堀一筋だけど。


「折角の小堀センパイの誕生日に何溜息なんかついちゃってんスか?」
「別に…何って事は…」
「…ひょっとして、料理美味くいかなかった、とか?」
「!?」


何だコイツ。
エスパーか何かか!?
キセキの世代ってそんな能力もあんのか!?

「…センパイ、声だだ漏れっス」
「うるさい。そーゆーのは聞こえてても聞こえてねーフリしろ。そんなだからモテねんだよ!」
「えぇっ!?何言ってんスか!オレモテモテっスよ!?」
「自分で言う奴に禄なのいねーよ。小堀の方が断っっ然イイ男だ!」
「はいはい、ゴチソーサマっス。…心配して損しちゃったっスよ」

黄瀬は苦笑いを浮かべて体育館に入っていった。
あんまり遅かったら笠松にシバかれるからな。

「…オレも入るか」
「おはよう、森山」
「!」

またしても後ろから掛けられた声に、今度は肩が跳ね上がる。
思わず持ってた箱を落としそうになった。

「中に入らねーのか?」
「あ、は、入るよ。入るけどちょっと用思い出したから、小堀先行ってろ」
「?わかった。あんま遅れんなよ?マネージャー」


オレの頭をぽんぽんっと撫でて…小堀は体育館に入っていった。

「っ」

何であんなすんなりカッコイイ事しちゃうんだよ…小堀のバァカ。

何だか恥ずかしくて…やっぱ渡せなくて…オレは家庭科室に走った。
ケーキを冷蔵庫に仕舞う為に。






時間は経過に経過して今は早くも放課後。
結局ケーキは渡せず終い。
今日は昼から体育館整備が入るって事で放課後練は無し。

だから小堀を迎えにクラスまで行ったんだけど…


「あれ、小堀は?」
「あ、森山。小堀ならさっきA組の女子と出てったぞ?」
「…え」
「バッカ!余計な事言うなよ!!」


小堀のクラスの奴が、彼が居ない理由を教えてくれたけど…オレは内容が気になってそれどころじゃない。
クラスメイトの止める声が聞こえたけど無視して、
荷物を抱えて、
廊下を全力疾走して、
体育館裏まで来て……。


小堀は…どっちかってゆーと地味だ。
ウチのバスケ部にはイケメンの黄瀬も居るし、キャプテンシー満載で責任感のある笠松も居るし、煩いけど明るくて犬っぽくて何か可愛い早川も居る。
何かと目立つアイツらと違って小堀はその中じゃ控え目で…縁の下の力持ちタイプだ。
だから小堀の魅力に気付いてるのなんて、部活でいつも近くに居たオレぐらいだと思った。


けど、そんなワケないよな。


小堀は誰にだって優しいし。
それを天然でやってのける紳士だし。
それが小堀の長所だから止めろなんて言えないし言わない。

でも、やっぱアイツがオレ以外の子に優しくしてるトコとか出来たら見たくないし。
ましてや、告白なんて…絶対ヤダ。

小堀が浮気するとか、オレと別れてもっと可愛い子と付き合うとか蟻の触角程も思わねーけど…。
よく考えてみれば、小堀は何だって出来る。

料理は上手いし…美味い。(シャレじゃねーけど)
裁縫なんてボタンどころか、解れだって裾上げだってお手の物。
洗濯はシミ抜きだって完璧…靴下は御丁寧にも手洗い。


オレなんて、必要ない。


「……っ」


自分で自分を追い込む様な事考えて勝手に辛くなって。

自棄になって持ってたケーキの入ってる箱を


思い切り


地面に叩き付けた。



箱は当然……見えないけど中身もきっとグッチャグチャになってる。


「っく…ヒッ、ぅく…ッ」


情けな…。
こんな事で泣くとか有り得ない。
どんだけ女々しいんだよ。
まぁ、女だけど。一応。


グチャグチャになったケーキを拾おうとしゃがみ込んで、滲んできた視界と流れてきた涙を拭う。


そしたら、


「森山」
「!…こ、っ」


なんでこのタイミングでよりによって此処に来ちゃうんだか。
小堀って変な所で間が悪い。
いや、悪いのはオレの方か…?


「こんな所にいたのか。探しただろ?」
「……ごめん」
「どうした?んなとこでしゃがんで…具合でもワリィのか?」
「…別に、何でもない。カバン取って来いよ。オレは持ってきてるし、校門で待ってるから」
「カバンならオレも持ってきてる。だから帰るならこのまま帰ろうぜ」
「………。」

用意周到だな、ホント。
まぁ、もう帰るだけだから当たり前か。

「そっか、」
「…何隠してんだ?」
「何も?隠してない」
「じゃあその地面に落ちてるのは?」
「これは…」


小堀の言葉に返せなくて吃るわ、しゃがんだまま動けなくなるわしてると、小堀が近付いてくる足音が聞こえた。


「…ケーキの、箱?」
「……。」
「コレ、もしかしなくても森山が…?」
「…今日、誕生日だろ?お前の。だから…」
「なら早くくれりゃ良いのに…」
「ヤだよ。何度やり直しても形は歪だし、小堀みたいに上手く出来てねーし。恋人の誕生日ケーキ一つ満足に作ってやれないんだ」

ヤバイ。
折角止まってたのに。
言っててまた泣けてきた。
小堀はどう思うだろう?
こんなのオレじゃない。
こんなの…こんな…

「……バカだな、森山」
「は…?」

朝の時みたいに小堀に頭を撫でられると、すぐ隣に人の気配。
小堀がオレと同じ様にしゃがみ込んでた。

「こぼり…?」
「ケーキ、オレのなんだろ?」
「…そうだけど」

そう言って小堀はカバンの中で何かカチャカチャしてると思ったら、箸箱から箸を取り出してきた。

「んじゃあ、いただきます」
「なっ!?ちょっ、ま…!」

オレの声は間に合わず…小堀はケーキを食ってしまった。箸で。


「……。」
「…………。」
「なんかシャケの味がするな」
「それは小堀が箸で食ってるからだろ?…腹壊しても知らねーからな」
「壊すワケねーだろ?幸い、ケーキは箱ん中だったんだし」
「そーじゃなくて……」
「…壊さねーよ。森山が作ったモンで」
「…っ」
「美味いよ。料理上達したよな、森山」

いつもの、小堀らしい穏やかな微笑み。
どっかのモデル野郎みたいにキャーキャー言われる様な笑顔じゃないけど、オレにとったら誰よりも眩しい表情。

「ばーか。小堀のばーか」
「何だよ急に…」
「……オレ以外の奴にモテんな。バカ」
「!…見てた、のか?」

膝に顔を埋めてスカートに吸い込まれると思ってボソッと呟いた言葉はしっかり相手に聴こえたらしい。
だから小堀からの問い掛けに、オレは『見たワケじゃない。でも、小堀のクラスの奴が女子と出て行ったって…』と正直に答えた。


「…そっか」
「うん…」
「………。」
「………。」
「…確かに、告白はされた」
「…っ」
「でも、お前が居るのに受けるわけねーだろ」
「だって…オレ全然可愛いくねーし、女らしくねーし…小堀に何もしてやれな…っ」


嗅ぎ慣れた匂い。
暖かくて広い胸板。
抱き締められてるって分かって、指先は勝手に小堀のシャツを掴んでいた。


「何もしてくれてねぇ事ねーよ。バスケで支えてくれてるし…趣味が合って、好きな事で話し合えて、こうやって誕生日も祝ってくれて充分じゃねーか。料理が苦手でも、裁縫が苦手でも…森山は可愛いよ」
「か、可愛くないっ」
「可愛いって。お前をいつも見てるオレが言ってんだから間違いない」
「〜〜〜っ」


小堀の胸元に額を押し当てる。
今絶対に真っ赤になってるだろうから。
もっと近くに小堀を感じたいから。


「それにしても、森山が嫉妬してくれるとは…嬉しいモンだな」


笑ってるのか、小堀の身体が微かに揺れる。
密着してるからその振動はオレにも伝わるワケで。


「…嫉妬なんかじゃ、ねーよ……ばか」


だけど嫉妬したのは事実なワケで。
なんか負けた気がして悔しくて…恥ずかしい事ばっかり平気で言い放つ唇を塞いでやった。








◆◆◆


そんなワケで!
とみのちゃんの誕生日祝いとして勝手に小♀森を書いて、勝手に捧げます(^^)
こんなんで良ければ好きに持ち帰ったって下さい!
何といっても小堀さんの誕生日捏造してっからね(笑)

因みに、森山ちゃんは砂糖と塩を間違えるという典型的なミスを犯してます。
小堀さんは優しい機転を利かせて『シャケの味がする』って言ったというどうでもいい裏設定が存在するのだよ←


とみのちゃん誕生日おめでとう!
これで正真正銘の同い年やね(笑)
お互い20代を謳歌しようぜvV


2010.10.15.金




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