記念・企画Novel

□【欲望と貴方に忠実なだけ】
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周りの人によく言われる。



“飼い主に懐いてる犬みたいだ”


………って。


確かにそうかもしれないし、そうじゃないかもしれない。

犬は主人に忠実だけど、オレはそれだけじゃない。
センパイに構って欲しくて抱き着いたり、キスしたり…欲望にも忠実だから。

その時ばかりは、センパイが『やめろ』と言っても『待て』と言っても止まらないから。


だから、センパイに伸しか掛っている今の状況だって、犬のクセに言う事を聞きやしない。



「……退け」

「いやっス」

「重てぇんだよ」

「重くないっス」

「それ決めんのオレだろうが」

「じゃあ諦めて下さいっス。オレはセンパイにくっついてたいんで」

「………………。」



特に何でって事はない。
出来る事なら、四六時中、24時間センパイには抱き着いていたいんだから。

ただ、つい先日たまたまモデルの仕事で地方へ撮影に行かなくちゃならなくて。
その間センパイと会えなかったのだ。
だから今は絶賛充電中。


「たかが一週間だろうが。甘えてんじゃねーよ!」

「だって寂しかったんスもん」

「大の男が“もん”っつーな。気色わりぃ」

「ヒドッ!あ、でも安心して下さいっス。センパイは“もん”っつっても可愛いっスから!」

「オレがいつ“もん”なんざ使うかってんだよ!テメェあんまナメた口きいてっとシバくぞ!」

「本当に鬱陶しいならイイっスよ?シバいても」


ニコッと笑みを浮かべ、腕を突っ張ってセンパイを見下ろすと溜息をつかれた。


「………ドM」

「センパイ限定っスよ」


“嬉しいっスか?”と聞けば“自意識過剰も大概にしやがれ”と、本当にシバかれた。
ちょっと痛かったけど、いつも部活でシバかれている程じゃない。
だからセンパイから離れる事もしない。
寧ろ突っ張っていた腕の力を緩めて、センパイを抱き締めるとスンスンと彼の匂いを堪能する。


「痛ぇっての。つか匂い嗅ぐんじゃねぇっ犬か!」

「周りにそう言われてんのセンパイだって知ってるじゃないっスか。オレもセンパイと居られるなら犬でイイし…オレってば忠犬っしょ?」

「どこがだよ。お前みてぇなのは駄犬っつーんだ」


センパイは呆れ顔で言い放ってまた溜息をつくけど、それって『飼い主と犬』って関係自体は否定しないって事っスよね。
本人はきっと気付いてないだろうけど。
言えば顔を真っ赤にして怒鳴ってくるんだろうな…。
それはそれで照れ屋なセンパイの魅力の一つだけど、普通にしてたってセンパイは十分に魅力的だから敢えて言わない。
今はこの時、この笠松サンを愉しもう。

だけど、からかいたくなるのもオレの性格の一つで…

「駄犬なんてヒドいッス!いい仕事するっスよ?オレ」


“知ってるクセに。なんなら、今から思い出させてあげましょうか?”


耳元でそう囁くと、ビクッとセンパイの身体が跳ねる。

「相変わらず弱いっスね…耳」

「っ調子に乗んな!」


ガ…ッ!


耳たぶをカプッと食むと、今度は結構な力で殴られた。
その痛さに負けて、センパイから離れてジンジン痛む患部を摩る。


「うー…暴力反対っスよぅ」

「暴力じゃねぇ。躾だ、躾」

「ホントに犬扱いっスね」

「それがイイんだろ?」

「…流石センパイ。解ってもらえてて光栄っス」


センパイの言葉にフッと笑い、離れていた距離を詰めてもう一度抱き締める。
さっきみたいな事があったのに、大人しくまたオレの腕の中に納まってくれる。

なんだかんだで優しい人なんだ、笠松センパイは。
オレの好きにさせてくれる。
それか、もしかしたらセンパイも寂しかったのかな?


「センパイ…」

「あ?」

「…寂しかったっス。一週間」

「…あっそ」

「…一週間空いた分、埋めさせて下さい」

「甘えてんじゃねーっつったろーが…ボケ」


口ではそう言ってるのに、センパイの腕が背中に回されるのを感じる。

…あったかい

ずっと恋しかった、熱。


「センパイ…大好きっス」

「…知ってんだよ。バーカ」


“今だけだから、存分に甘やかされとけ”


センパイ(飼い主)からの命令。
ギュッと抱き締める事で応えるオレ(犬)。

センパイの命令に忠実に応えつつ、オレの『センパイの温もりを感じたい』という欲望にも忠実に応える。

なんて一石二鳥。

だけどもし、『欲望』と『貴方』どちらかしか選べないとしたら…どちらに忠実になるだろう?

その問いに対する答えを自分の中でのみ呟き、又その答えに対するセンパイへの謝罪も、心の中でのみ呟いた。

けど安心して下さい笠松センパイ。
オレの言う『欲望』はいつだって、



『アンタを愛したい』って欲望っスから。





―――『欲望』か『貴方』なら…………『欲望』、かな?やっぱ。






◆◆◆


末永 翼様主催の7月4日の黄笠企画に提出させて頂きました。

翼さん!
素敵な企画に参加させて下さり、ありがとうございました!


2010.6.23.水(提出)
2010.7.4.日.黄笠day




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