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□【惚れたモン負け】
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暑く照らす夏の太陽…


弾ける水飛沫…


そして響き渡る…



「キッモチーー!!」
「きゃっ、ちょっとヤメテよー」
「けほっ、ヒッドーイ!水飲んじゃったじゃない!」



瑞々しい果実(女子)達のはしゃぐ声。



「いやー…ホンットにイイ季節だよな。夏って!」


ドガッ!!


「イ゛ッテェ!…何すんだよ笠松」
「何すんだよじゃねーよ!オレの席の前でオッサンじみた事吐かすお前が悪い」


そう言ってオレの座る椅子の底を靴の爪先で蹴飛ばしたのは、同じクラス・そして同じバスケ部で主将を務める笠松幸男。
偶然にも前後の席。

今は4限目の絶賛授業中。
本来なら教師の声と黒板を走るチョークの音が教室内に響くはずだが、オレ達のクラスは自習なので生徒の雑談が飛び交っている。
とはいえ、隣付近のクラスは普通に授業してるからトーンは抑え気味だけど。
当然、課題として自習プリントは配布されたけど、そんなモノはとっくに終わらせた。
だからこうして窓の外、眼下に広がる真夏の楽園に想いを馳せれるってワケだ。


「仕方ないだろ。オレ達だって健全な男子高校生だぜ?部活じゃボールばっかり追い掛けてんだから、日常でぐらい女の子を追い掛けてもイイじゃないか!」
「ソレただの変態だろーが!大体、テメェは部活でもギャラリーの女子ばっか気にしてんじゃねーか」
「お?なんだ笠松、嫉妬か?」
「黙れシバき回すぞ」
「…ったく、冗談がホントに通じないな…笠松は。そんなんじゃモテねーぞ」
「大きなお世話だ!」


何だかんだ言いつつ、オレの相手をしてくれている辺り笠松の人柄、というか性格が出ていると思う。
普段は殴る蹴るぶっ飛ばすな主将だけどな。



キーンコーンカーンコーン…



「お、チャイム鳴ったな」
「ああ。っんーー…!!腹減ったー」


グッ…と伸びをし、腕や首を回したりしながら肩を解す。
一番後ろの席からプリントを回収していき、それを学級委員が纏め終えた頃、廊下から黄色い悲鳴が聞こえてきた。

こんな黄色い悲鳴が上がるのは黄色いアイツしか居ない。
相変わらず速いな…1年校舎から3年校舎まで結構離れてるってのに。


「お迎えみたいだぜ」
「ちっ…毎度毎度うるせー奴」
「とか何とか言って…赤くなってるぞ?顔。」
「るっせー!!」



ガラガラガラ――…ッ



「セッンパーーイ!!お昼一緒しましょーっス!」


オレと笠松が話していると、予想通り…というかいつも通り、部活の後輩であり笠松の恋人である黄瀬がやって来た。


「うるせーぞ黄瀬ェ!つーか毎日毎日堂々と3年校舎に来んじゃねぇ!!」
「またまたぁ〜そんな照れなくてもイっスよ!」
「……シバいていいか?」
「落ち着け笠松。別にイイじゃねーか、こんなの今更だろ?」
「さっすが森山センパイ!分かってくれてるっス!!」
「当たり前だ。オレは恋愛に最も理解のある男だぞ」
「じゃあとっととテメェの恋愛探せよ」
「探してるさ!どこかに必ずオレだけのエンジェルが居るはずなんだ!!ただ、まだその娘に出逢えていないだけで!」
「あっそ」
「ただ一つ気掛かりなのが、もしその娘と出逢えた時、果たしてオレはその娘一人だけの為の存在になってしまって良いのかどうかって事だ…!!」
「ただの最低ヤローじゃねーか!てか何だそのナルシスト具合っキモチワリィ!!」
「そんなワケで黄瀬、また女の子紹介ヨロシク」
「シカトすんなぁあああ!」
「まぁまぁセンパイ落ち着いて!ほら、昼飯食いましょ。森山センパイも!」


まったく…笠松は短気だな。
だがしかし、笠松がモテるのは知ってる(…さっきは“モテねーぞ”的な事言ったけど)。

熱血漢で多少細か過ぎる所はあるが、責任感がある・口は悪いが男らしくて頼もしい・ぶっきらぼうな優しさがカッコイイ…等など。


黄瀬は黄瀬で現役モデル。
文句なしのイケメン…それでいて可愛らしい一面を持ち合わせている。

どっちも大層モテる。
そんなコイツらが付き合ってる事実は当然オフレコ。
部活内でもオレや一部の連中しか知らない。

ま、そんな二人だからこそ、からかうのがスッゲェ楽しいんだよな…。


…………ん!?


「…黄瀬!あっち見てみろ」
「なんスか?」
「廊下!廊下!!」


オレが話を振ると黄瀬が箸先を銜えながら廊下へ視線を向けた。


「?廊下って…なんもないじゃないっスか」
「バッカお前…プール上がりの女子が居るだろ!」
「ブフゥーーッ!!!」
「汚っ!…テメェ黄瀬っ何吹いてやがる!」
「スマセーン!!、や、でも今のはオレの所為じゃ…っつか、森山センパイ!いきなり何言い出すんスか!!」


ゲホッゲホッと噎せる黄瀬と怒る笠松を放置し、オレは語り続ける。

「イイよなー…プール上がりって。拭ききれなかった水気が髪から滴り落ち、ブラウスに染みて若干透けるってのがさ…。髪が項に張り付く感じもイイし…こう……ロマンっつーか、男の夢?」
「ただのヘンタイじゃねーっスかぁ!!」


顔をトマトのように赤くしながら、さっきの笠松と全く同じ事を訴えてくる。
モデルとかやってるし、普段から囲まれてるからもっと女の子に慣れてるのかと思ってたけど…そうでもないのか。

そう思って試しに聞けば『センパイの言い方は一々イカガワシイっス』と言い返された。
センパイに対して失礼な奴め。


「森山、いい加減おちょくんの止めてやれ。黄瀬も森山の言う事に逐一反応してたらキリがねーぞ」
「はいっス!」
「……お前らな」

笠松まで失礼だぞ。
自分は授業中逐一オレの相手をしてくれてたクセに…。
笠松も大概ツンデレだと思う。

オレが考え耽っていると笠松と黄瀬の会話が耳に入ってきた。


「ンだよ黄瀬。ヒトの弁当ジロジロ見んじゃねぇ」
「だって…センパイの弁当、超美味そうなんスもん」
「別に普通だけど…なんか食うか?」
「え、イイんスか…!?」


パァア…ッと黄瀬の顔が輝いて見える。
この顔はイケメンというより飼い主に懐く犬にしか見えない。
バスケ部では最早名物と化したモンだ。


「ほら、好きなの取れよ」

笠松が自分の手元にあった弁当を黄瀬の近くに寄せる。
だが黄瀬は若干不満そうだ。
恋愛テクニシャンのオレは原因が解っているが、試合以外はとんと鈍い笠松は気付かない。


「えー…“あーん”ってしてくんないんスかー?」
「誰がンなハズい事するか!甘ったれてんじゃねーぞ!!」

顔を真っ赤にしながら言っても可愛いだけだぜ笠松。
照れてるって丸解りだ。

ホント、男ばっかなのにウチの部は可愛い奴が多くて困る。
あ、部をまとめる主将が可愛いから部員が可愛いのは仕方ないのか。


「イイじゃねーか笠松。減るモンじゃないんだし」
「オレの精神が擦り減るわ!」
「センパーイ…」


きゅるん…そんな効果音が聴こえてきそうな表情の黄瀬。
成る程、そうやってターゲットをオトすのか…勉強になるぜ。
現に笠松も「う゛っ…」とたじろいでいる。
厳しいようで実は甘い笠松が陥落するのは直ぐだった。


「…ちっ、どれがイイんだよ…?」
「からあげ!唐揚げがイイっス!!」
「………おら、口開けろ」
「へへ、あーんっ」


大口開けて笠松の箸(+唐揚げ)を待ち構える黄瀬。
“あーん”する様に焚き付けたのはオレだが、それを大人しく見守らないのもオレだ。

黄瀬の方へ伸びる笠松の腕を取り、自分の方へ向け………


…パクッ


「あ」
「ん。美味い」


唐揚げを口に招き入れた。


「あぁあぁぁああっ!!!何してんスか!?何してんスかぁっ!!?何で森山センパイが食べちゃうんスか!」
「そこに唐揚げがあったからだ」
「意味分かんねっスよ!!返して下さいっス、オレの唐揚げーっ」
「残念だったな。オレの口に入った時点でオレの唐揚げだ。あ、なんなら口移しでやろうか?」
「いらねっスよ!うぁああん森山センパイのバカァアア!!」


わんわん泣きじゃくる黄瀬。
カワイイなぁ、ホント。
じっ…とオレを睨みつけてくる笠松も可愛い。


「ギャーギャーうるせぇんだよ!たかが唐揚げぐれぇで喚くんじゃねぇ!ったく…こっち向け黄瀬ェ!」
「う?…むぐっ」

笠松は、顔を上げた黄瀬の口に新しい唐揚げを突っ込んだ。

「………これで文句ねぇだろ?」
「…ふぁふぃっフ」
「口にモノ入れたまま喋んな。行儀ワリィ」
「(ゴクン)…チョーー美味かったっス!!センパイありがとうございます!」
「……けっ」


だから笠松顔赤いってーの。
っとにコイツらは…独り者の前でイチャコラと。

ホント…


「『ゴチソウサマデシタ』」
「あ?お前まだ食ってんじゃねーか」
「いやいや、もう腹いっぱいだから(お前らの所為で)」


まあ、半分は面白がって焚き付けたオレの所為だし、コイツらがこんなにも互いを想っている事を知ってるのはオレだけの特権だし…良しとするか。

『恋愛は惚れた方の負け』

なら“可愛い笠松とカワイイ黄瀬の関係”に惚れたオレの負けなんだろう。







◆◆◆


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