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□【おやすみ】
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何だ何だ何なんだ…?
この状況……。


「あの…真太郎、サン?」
「…………んー」


駄目だ…。
半分寝てる……。


明日は部活休み。
今日は学校が終わってから真ちゃんが家に泊まりに来ている。
数日前から頼みに頼み込んで漸くもらえたOK。なんだけど…。

現在瞼は閉じられ、綺麗な翡翠色した瞳は隠されている。
そりゃ、風呂入って、飯食えば眠くなるけどさ…。
もーちょっとこう…イチャイチャしたいというか…イヤンバカンな事があっても良いと思うわけ!恋人のオレとしては!!
だって状況を考えてみてよ!!

此処はオレの部屋。
二人きり。
オレの肩に頭を預けてウトウトしている真ちゃん。
夜…。

『もう食っちまえよ!』って声が聞こえるもん!!
アレ?オレ誰に言ってんの?


…でも、それはできない。
別に真ちゃんとそーゆーコトをした事ないわけじゃないけど、寝呆けてる真ちゃんを襲うなんて出来ない。
ヘタレとか報復が怖いとかってわけじゃない。
“据え膳食わぬは男の恥”とか言うけど、これはオレの礼儀。


「真ちゃん…眠いならもう寝ていいよ?ベッド行こ?」
「……んぅ、まだ寝な…のだ、よ」
「んな眠そうにして何言ってんの。もうトロントロンじゃん」


眠いくせに、本人は何故か寝たくないようだ。


「何でそんな寝たくねーの?」

今の真ちゃんを見れば万人が万人『眠そう』や『寝ろ』と言うだろう。
オレの疑問は当然だ。
だからそう問い掛けると、相変わらずオレに体重を預けたまま、真ちゃんは予想外の答えをくれた。


「……せっかく、泊ま、りなのに…勿体ない、のだよ」
「……へ」
「もっと、構え…バカ尾」
「っ!」


あーもー…何この子。
すんげぇ可愛いんですけど?
流石は世界三大美人が尻尾まいて逃げるツンデレ美人。
銀河系一の美人。間違いない。
滅多にないデレをこんな所で見られるなんて…神様ありがとう。


「真ちゃん、明日も一緒に居られるから…今日はもう寝よ?」
「むー…」
「オレももう寝るから。ね?」
「……ん」
「ん。いい子」


真ちゃんを一旦立ち上がらせ、ベッドまで連れていき体を横たえると、オレはサイドボードの上に置いてあるスタンドを点け、部屋の電気を消す。
最初は真ちゃんにベッドを譲り、オレは床に敷いた布団で寝るつもりだった。
でもその予定を変更して、真ちゃんの隣に横になる。


「ほら真ちゃん。メガネ外さなきゃ」
「ん…ヤダなのだよ」
「もー、またワガママ言って…。外さなきゃ寝らんないっしょ?ほら、フレーム歪んじゃうから」
「外したら…高尾の顔が見えないのだよ」
「…………。」


だからこの子は…!!
人が一生懸命に我慢してんのに何でそう理性を引き千切るような事言うかな!!


「………。」
「や、たかおっ返せ!」


オレはパッと真ちゃんのメガネを外して、スタンドの横に置く。
そして…

「!」
「こんだけ近くなら、見える?」

グッと真ちゃんを抱き寄せ、鼻先がくっつくかどうかってぐらい近付く。
お互いの吐息と体温、心臓の音をすぐそこに感じる。


なんて、心地好いんだろ―…?


「……見、える」
「そか。んじゃ、寝よ!ベッド入ったらオレも眠くなっちった」
「……うむ」

そう言って真ちゃんは瞼を閉じた。
真ちゃんの滑らかな頬を一撫でし、瞼に唇を落として、唇を軽く触れ合わせる。


「おやすみ、真ちゃん」
「おやすみ…」


最後にそう言葉を交わし、スタンドの灯を消す。
掛け布団をもう一度ちゃんと被り直してオレも瞼を閉じる。

明日の朝、目を開けて最初に君を見れますように…。




――高尾は知らない。
オレが本当は寝呆けてなどいなかった事を。
ただ、恥ずかしくて素直に甘えられなかったという事を。



――真ちゃんは知らない。
オレが本当は彼が寝呆けたフリをしていた事に気付いている事を。
万人を騙せても、オレは騙せない。
だってオレは万人よりも、億人よりも、この世界中の誰よりも真ちゃんを見ているから。
ホンット、素直じゃないんだから。


おやすみなさい愛しい子!
また明日も愛してる!!





◆◆◆


next→あとがきという名の謝罪文



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