記念・企画Novel

□+岩春+
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2月13日土曜日の部活終わり。


部員達はみんな帰り、今現在 部室に残っているのは部長の岩村と、岩村を待っているオレだけ。


恋人という関係になって早1年。
一緒に帰るのが当たり前になっていた。


岩村が何をしているかと言えば、部長の仕事として部誌と決算書―バスケットボール代とか部費として生徒会(学校)から貰ってるお金の計算―を書いているのだ。


だから、彼が書き上げるのをこうしてずっと…ずーーっと待ってるんだけど……



(退屈ー……)




仕事なのは分かってるけど、放ったらかしにされるのは些か面白くない。


「ねー岩村ぁーまだー?」
「あと少しで終わる。もう少し待て」
「ぶー」
「……だから先に帰っても構わんと言ったんだ」
「そーだけどー…、そーじゃないのー…」


確かに先に帰れとは言われた。
でもやっぱ一分一秒でも長く一緒に居たいじゃん?
岩村はオレの事すっげぇ大事にしてくれるし、理解してくれてるけど、こういうちょっと微妙な所はちっとも解ってない。



(岩村のバーカ。鈍ちん)



「仕事と俺とどっちが大事なのさー…」

「…なに?」



あ、しまった…。
ついつい考えていた事が口から零れてしまった。

だけど聴かれてしまったものは仕方ない。


ぶすー…と、むくれ顔のまま脚を組んだ膝の上に頬杖をつく。


「何をむくれているのかと思えば…そんなつまらない事か」
「…つまらないとは何さ」


こっちは本気なのに。
岩村の激ニブ鈍感無神経男…!!
何だってコイツを好きになったんだろ?
ごくごく稀にだけど、そう思う事がある。



「………。」
「………。」
「……春日、」
「……何?」


岩村が走らせていたボールペンを止め、オレに視線を寄越してくる。



「…仕事には締め切り期限があるが、お前との関係に期限があるのか?」


「…………へ?」



そして思ってもみなかった事を言ってのけた。
だからオレの口からは大変間の抜けた言葉が出てしまった。


「これさえあと数分で書き上げてしまえば、あとの時間はお前と一緒に過ごせる。……今日だけと言わず、明日も明後日ても…それこそお前が飽きるくらい、な」
「……。」



あーもー……
何でそーゆー事言っちゃうんだろ?

怒ってた(てか拗ねてた)のに、気分は一気に快晴になる。
嬉しいを通り越して寧ろ少し恥ずかしいくらいだ。


「…オレは無期限のいつまでも有効ですー。…だけど早く済ませてよねー」
「ああ、分かっている」


自分でも単純だと思うが、さっきので機嫌が直ったオレは大人しく待つ事にした。

それでもやはり手持ち無沙汰なわけで、何かないかカバンの中を探る。



「んぁ?」



カサッ…と、何かが探る手に当たった。
取り出してみると、さっき津川からもらったポッキーの袋だった。
アイツはいつも何かしらのオヤツを持っている。
バレンタイン前日という事を意識してポッキーにしたのだろう。

アーモンドとホワイトチョコレートでコーティングされている、普通のよりちょっと豪華なポッキー。

丁度腹も減っていたので頂く事にする。


封を開け、パキポキと食べていく。
岩村にもあげようかと思ったけど、津川に断ってた…というか『部活に菓子を持ってくるな!!』と叱っていたので止めておく。

一袋全部食べ終わった所で書き終わったのか、岩村が顔をあげる。


「ふぅ…終わったぞ春日」
「おつかれさま〜」
「ああ、待たせたな。」
「ホントにねー…暇でしょーがなかったー」
「人が仕事をしている傍でポキポキと食べていたくせによく言う…」
「あ、聞こえてたー?」
「当たり前だろう」


だって暇だったんだからしょーがないじゃん。


「さ、終わったんなら帰ろー?」
「そうだな。ん?……春日、ちょっと待て」
「んぁ?」
「顔にチョコがついているぞ」
「うそっ、どこー?」
「もう少し右だ」
「んー…取れたー?」
「…まだだ」
「えー…」
「はぁ……春日」
「なーにぃやぁっ!?」


立ち上がっていたオレの腕を引っ張り引き寄せたかと思えば、奴の顔が段々と近づいてくる

そして…、





ペロッ





「まったく、的外れな所ばかり触って…。お陰で甘いものを食べてしまった」
「………。」



口許についていたであろうチョコを舐め取られた。

なんでコイツという奴は普段しない事をサラッとこーゆー時に限ってやってしまうのか…。

岩村はよく『お前にはよく振り回される』って言ってるけど、オレだって十分お前に振り回されてる。



このままじゃ、オレのプライドの気がすまない。
…主に岩村で楽しむ的な意味で。



「ねー岩村ぁー…」
「どうした…っ!」



岩村の首に腕を回し、彼の唇を自身のそれで塞ぎ、舌を差し込む。
逃げる粘膜を追い掛けて絡めれば、さっきまでオレが食べていたお菓子の甘さを共有する。
甘いものが苦手な彼にとったら十分な仕返しになり得る。


「ん…」
「…春日」


唇を離せば、お互いの唾液で濡れる口許を親指で拭われる。



「お前という奴は…」
「結構待たされたんだから、こんくらい貰ってもいーでしょー?」
「はぁ…」



呆れを含んだ溜息ばっかり

失礼な奴



「ねぇ、岩村ー…」
「…今度は何だ?」






「………アマかったー?」






相手の頬に手を添えて問う。


『何が』


とは言わない。
言わなくてもきっと伝わるから。




「……死にそうなくらいに、な」
「ふふ…そっかー」



その返答に満足してオレは微かに笑う。


それなら…許してアゲル




高ぶった熱も


火照った気持ちも



当分鎮まりそうにない。





   甘いイタズラ





◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇



嫁、強し^^

岩村は鈍いくせにサラッと口説きそうです。ってか口説きます(断言)



2010.2.14.日




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