記念・企画Novel

□+火黒+
1ページ/1ページ





今日は2月14日。
世間で言うバレンタインデー…。
だが、ボクには関係ない。

あげる人が…あげたい人が傍に居ないから…。
わざわざ海を越えた遠い国にチョコを贈るというのも…なんだか気がひけてしまって…。



火神大我くん。



ボクの光で、
ボクの愛している人…。


その彼は高校を卒業後、アメリカへ渡ってしまった。



『ぜってぇ迎えに行く。もっと強くなって…バスケもオレ自身も磨いて帰ってくっから。…それまで待っててくれ』



その言葉を残して…。


そんな超遠距離恋愛を続けて早5年。
大学も卒業し、無事に就職をし、仕事にも慣れてきて忙しい…それでいて楽しい日々を送っている。

誠凛の先輩達はもちろん、黄瀬君たちキセキの皆とも未だに連絡を取り合っている仲。


それでも寂しいと思うのは…彼が傍に居ないからだ。

年末年始だって帰ってこない。
メールや手紙のやり取り、バスケ雑誌の『海外で活躍する日本人』のページ…。
彼が元気だと知る術は全部が紙の上。

国際電話は高いのでお互いの誕生日の時しか掛け合わないようにしているから、声を聴けるのは年に二回。


(さみしい…です)


だけど『待ってる』と約束した。
彼が迎えに来てくれるのを待ってると。


ハァ…と溜息がでる。

何年も待たせている彼に対しても、女々しい自分に対しても。



ピリリリリリ…



考え事をしていたら急に携帯の着信音が鳴り響いた。

一体誰でしょう?

携帯を手に取り、発信者の名前を見るや、ボクは通話ボタンを押していた。




『黒子?』
「か、がみ…くん?」



聴こえてきたのは、ずっと想いを馳せていた相手。


「ど、どうしたんですか?今日は誕生日じゃありませんよね?」
『ああ、ちょっと…早く言いてぇ事があってな』
「何を…」



少しの沈黙。
お互いの息遣いだけが機械を通して聴こえる。
火神君が息を吸って、吐いて…。
そして告げられる。




『……待たせちまったけど…オレと、結婚してくれ。黒子』


「は…?」



一瞬、何を言われたのか解らなかった。

“元気か?”でも“最近どうしてる?”でもなく急にそんな……


けっこん…?



「……。」
『……黒子?』


沈黙するボクに火神君が名前を呼ぶ。
それでも頭の中が真っ白になって何て答えたらいいのか解らなかった。
だからだろうか。
無意識の内に口から飛び出た言葉は……



「……アメリカと日本ってそんなに時差があるんですね。そっちは今日エイプリルフールなんですか?」



…と、後々になってよく考えれば自分でも不可解なものだった。



『んなわけあるかっ!!…ウソでも冗談でもねぇよ!!』
「だ…って…ボク…男、ですよ?」
『知ってる。どんだけお前ん事見てたと思ってんだ』
「…ヤラシイ事言わないで下さい」
『バッ…!!そーゆー意味じゃねぇよ!!』
「冗談です。分かってますよ」
『お前冗談苦手だっつってたじゃねーか!!!』
「少しは言えるようになりましたよ。……あれから何年経ったと思ってるんですか?」
『………ワリィ』
「………。」
『待たせて本当悪かった。』
「…か、がみく、ん」
『傍に居て欲しいんだよ、お前に』
「……。」
『オレはもう待てねぇし…これ以上お前を待たせたくねぇんだよ』



一つ一つの単語を噛み締めて段々と脳内が理解し始める。


「火神くん…っ」


『……次会った時…お前の事貰いに行くから』
「!」
『…じゃ、ちょっと用あっから切るな』
「ちょっ、火神く…っ!」



ブッ…ツーツーツー



「切れてしまいました…」



何?
何で急に…あんな事…



『貰いにいく』




カァ…っと顔に熱が溜まるのが分かった。

それが無性に恥ずかしくて近くにあったお気に入りのクッションに顔を埋めたりポスポス叩いてみたりする。

けっこん?

結婚!?

ボクが誰と?

…火神君と?


いや、覚悟はしていた。
むしろ望んでいた。

アメリカの一部の州では同性同士の結婚が認められている。
でもそんな急に…!!


考えれば考えるほど頭は混乱してくる。
そんな時に…



コンコン…



控えめに窓を叩く音…


え?

……未だに実家暮らしのボクの部屋は二階…。

なのに窓からノック音?


カーテンを閉めているから誰かとか、そんな事は分からない。
いや、その前に何?
強盗?泥棒?
でも泥棒とかがノックなどするだろうか?


コンコンコン…!


嘘だと思いたい。
だが考えている間にも窓を叩く音は続く。


(えぇい、ままよ!!)


意を決して窓に近づき…


シャッ!!


カーテンを開ける。



「…………え」
「……。」


窓の外に居たのは、さっきまで電話をしていた相手。


『遅ぇよ。早く開けてくれ、寒ぃ』

口パクでそう言ったのが分かった。


何も考えられない頭でも、体は勝手に動きガラッ…と窓を開ける。



「よぉ……貰いに来たぜ」



ボクが逢いたかった人。
ボクが待ち侘びた人。
ずっと愛している人…。

その人が今目の前に、
直ぐに触れられる所に居る。


「か…かが、」


最後まで名前を呼ぶ事なく、火神君に抱きしめられる。


何故?
どうして?
アメリカに居るはずじゃ?
いつ日本に?


聞きたい事、言いたい事は山ほどあったけれど…


久しぶりに感じる彼の体温が…。

久しぶりに伝わる彼の鼓動が…。

久しぶりに嗅ぐ彼の香りが…。

「…黒子」

久しぶりに響く…幾分か低くなった彼の肉声が…。


全部が懐かしくて。
ずっと待っていた…。
ずっとずっと恋しかった…。


「っかがみくん…!!」


ギュウッと彼にしがみつくように腕を回す。

また背が伸びた気がする。
髪も少し伸びましたね。
顔付きも…体つきも…あの頃より男らしく、逞しくなって…。



「遅いですっ」
「…悪かった」
「ずっと…ずっと!!待ってたんですよっ!!」
「…あぁ」
「ずっと……逢いたかったんです…っ」
「…オレも」


今まで逢えなかった分を、離れていた時間を埋めるように痛いくらい抱きしめ合う。


「オレとアメリカに来てくれ…黒子。」
「……本当に急、ですね」


家族とか仕事とか…友達に報告とか…大変ですよ。



「……嫌か?」



嗚呼、そんな不安そうな顔をしないで下さい。
でも、待たされた分ちょっと仕返し…。


「…嫌だ…って言ったら?」


「……聞かねぇ。このままかっ攫っていく」
「…!」



ずるい



狡い



ズルイ




いつだって強引で。
いつだって欲しい言葉をくれる。


ボクの方がいっぱい食わされた気分です。


ボクの答えなんて分かりきっているくせに……。



「…火神君」
「…ん?」
「ボクを攫って下さい



ボクを抱く火神君の腕が更に強くなる。
だがそれも一瞬で、すぐ力が緩む。

“どうしたんだろう?”

と顔を上げると彼の整った顔が近づいてくる。



ボクは瞼をとじ、彼のそれを受け入れた…。


数年ぶりに交わした口づけは


溶けてしまいそうなほど熱くて



とても甘かった―……




    Anniversary





◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


友達の結婚記念日がバレンタインデーなのです!!
今年で結婚丸1年。
先日子供も無事に産まれて幸せだそうです^^
本当におめでとう!!!


黒子の誕生日には書いてあげられなかったので、バレンタインは火神んを幸せにしました。
だから火神んは黒子を幸せにしろよ!!



2010.2.14.日




[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ