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□【闘いはこれからだ】
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何もない折角の日曜日。



だが緑間は休む事なく、机に向かって教科書・ノートと睨めっこをしている。


それもそのはず…
もうすぐ期末テストなのだ。
真面目に人事を尽くす彼が昼食を終え、机に向かっていた時…



ピンポーン…



という来訪者の知らせ。


『はーい』

と母親が対応する声。
すると…


『真太郎ー、高尾君が来てるわよー!』

(高尾が?)


同じく今日は休みのはずの彼が何故?
そう思いながら勉強していた手を止め、下へ降りた。


「あ、やっほーい真ちゃん!!」
「一体なんの用なのだよ」
「んなつれねー事言うなって!理由がなきゃ会えないオレ達じゃねぇだろ☆」
「帰れ」
「ちょ!嘘、うそです!ちょっと勉強で教えて欲しいとこがあってさ」
「そのためにわざわざ来たのか?メールとかで良いだろう」
「し・ん・ちゃ・ん・と!勉強したかったの!」
「??…まぁ、上がるがいいのだよ」
「やった!お邪魔しまーすっ!!」


何だかよく判らないが自分と勉強したいと言う高尾を自室へ上げ、自分は一応客の彼に茶を入れに台所へいく。



部屋へ戻ると高尾は床に座っていた。

「ウーロン茶しかなかったが」
「おっ、サンキュー!」
「では始めるか」
「えーーっ!もう始めんのー?まだイイじゃ〜ん」
「何を言っている。その為に来たんだろう。人事を尽くせ!」
「ちぇっ……へーい」


うだうだと怠ける高尾に教科書やノートを出すように言い、勉強を見てやれるように折り畳み式の簡易机を出し、自分もそちらへ移動する。


「…で、どこが解らないんだ?」
「ああ、物理なんだけどさ……ここ」
「これか。この問題は……」


極力高尾が解りやすいように説明していく。
高尾も相槌を打ち理解しているようで緑間は満足していた…が、実際高尾は違っていた。

(うわー!真ちゃん近っ、やっぱ睫毛長ぇなー。てか、キス出来そうなんですけどー!!)

とか思っていた。

「おい、高尾?」
「(きっと柔らけーんだろーなー…)」
「高尾!聞いているのか!!」
「え?あ、うん聞いてる聞いてる!」
「…ならここの問題を解いてみろ」
「んー?…あぁ、これか。了ー解っ…と」
「…。(随分と余裕だな)」


実の所、高尾は別に物理は苦手ではない。
頭の良い緑間と同じ秀徳に通っているのだ、彼とてそこそこ勉強は出来る。
たまたま手近な所に物理の教科書があったのでそれを引っ掴んで来たのだ。
つまり本当に緑間と勉強…いや、緑間に会いに来ただけである。

高尾が問題に取り掛かった所でまた…


ピンポーン…


「んぁー?誰か来た?」
「そのようだな」


ピンポーン…
ピンポーン……


「?…あぁ、そういえば母さんは買い物だったな。ちょっと行ってくるのだよ」
「いってらー」





緑間が部屋を出てから少しして階段を昇る音がしてくる。
そして騒がしい話声も。

(なーんかヤな予感…)

高尾のその予感は的中した。



「待たせたな高尾」
「やっほー高尾っち!」
「げっ、マジでいやがる」
「こんにちは、高尾君」
「………。」

緑間と共に部屋に入って来たのは、彼と同じく『キセキの世代』の黄瀬と黒子、そして火神だった。

「何でお前らここに!?…ってか火神!“げっ”て何だ“げっ”て!!」
「別に何でもねーよっ」
「高尾君こそどうしたんですか?」
「オレは真ちゃんと勉強しようと思って…」
「じゃあオレらと一緒っスね!」
「は?」
「ほら、もうすぐ期末じゃないスか〜。で、緑間っちに教えてもらおうと思って★」
「はぁ!?自分とこの奴か先輩に教えてもらえよ!」
「先輩達じゃ手に負えないくらいおバカなんです。ね、火神君」
「るっせぇ!」
「期末はマークシートじゃないので緑間君特製鉛筆はあまり使えません。なのでテストまでに火神君を何とかしないとボクら試合に出られないんです。そしてボクはその付き添いです」
「オレは自分がヤバいんで助けてもらいに来たっス!!」
「先輩は?」
「……“テメェで何とかしやがれっ!”て言われたっス…もうオレには緑間っちしか居ないんスよ!!ね?緑間っち!!」
「仕方ないから面倒見てやるのだよ。」
「テメ、黄瀬ぇ!告白まがいな事言ってんじゃねぇ!オレには端っから緑間しか居ねぇんだ!」
「自分だってちゃっかり告白してるじゃないっスかー!!」
「折角真ちゃんと二人っきりだったのにー!!!」
「皆うるさいですよ、早く座ったらどうですか」
「全くなのだよ。騒ぐのなら帰れ」
「「「静かにします!」」」



机は四辺しかないので、高尾、黄瀬、火神、緑間が座り、黒子は緑間の勉強机に備え付けられている椅子に座っている。

「んー…緑間っち、コレ解んないっス…」
「ん?コレには…この式を代入しろ。そうすれば解ける」
「あり?真ちゃんコレなんか間違ってる?」
「…そこはwhichじゃなくてwhoを使うんだ」
「なー緑間、これ何て読むんだ?」
「お前はそこからなのか!!?」


一人で三人の面倒を見る緑間は凄い…と第三者目線で黒子は思う。
何故自分は中途半端に勉強が出来るんだろう…とも。
勉強で構ってもらえない黒子は暇なので緑間の購読している本を読んでいる。

「この作家さんの本、面白いですよね」
「む?あぁ、オレもその人の書く話は好きなのだよ」
「…今度映画化されるらしいですよ?」
「…そうなのか?」
「はい。良かったら一緒に行きませんか?」
「あぁ、構わないのだよ」

黒子と緑間が良い雰囲気になりかけた所で勿論邪魔が入った。

「おい黒子!抜け駆けすんな!!」
「そっスよ黒子っち!!」
「真ちゃんをたぶらかすな!!」


猛獣の睨みと、わんこの訴えと、犬の威嚇がとんでくる。

「うるさいっ騒ぐな!問題は解けたんだろうな!?」

そしてこんなに明白なアプローチを受けているのに全く気が付かない女王。

「…何で気が付かないんでしょうね?」
「何か言ったか?黒子」
「いえ、何でもありません。気にしないで下さい」
「?」




その後も、何度も似たような事で騒がしくなり、その度に緑間に叱られるという悪循環だった。


そして時刻は現在18時を少し回った所。
勉強を見てやったり、騒ぎを鎮圧したりと、緑間はどこか部活以上の疲労を感じていた。



『真太郎ー、夕飯出来たから皆と降りてらっしゃーい!』


階段の下からいつの間にか帰ってきていた母親の呼ぶ声が聞こえる。
どうやら靴の数を見て人数分の夕飯まで作ってくれたらしい。
母親の声に『すぐ行きます』と返し、勉強をしているのか、はたまた騒いでいるのか判らない馬鹿共には『夕飯だぞ』とだけ言って、さっさと自分は下の階へ降りて行ってしまった。


「あぁっ!待って真ちゃん!!」
「あぁーっ、緑間っちの隣はオレが座るっスー!!」
「バカ言ってんじゃねぇ黄瀬!!緑間の横はオレに決まってんだろ!じゃねーと飯が美味くねぇっ!」
「君こそ何をバカな事言ってるんですか?緑間君のお母さんに失礼ですよ。マジバにでも消えてて下さい。」
「そーだそーだ!緑間家のエンゲル係数を抑える為にも火神はマジバに行ってきなよ!!」
「「異議なし(です)(っス)!!」」
「異議あるわぁっ!!」
「でもって真ちゃんの隣はオレが座るから!」
「じゃあ逆隣はボクが座ります」
「えぇっ、じゃあオレはどうなっちゃうんスか!?」
「火神君とマジバにでも行って下さい」
「黒子君ナイスアイディア!!」
「ヒドッ!」
「っ上等だテメェらぁああ!!!!」






「……ハァ」


未だリビングに降りて来ず、緑間の自室で騒ぐバカ四人に溜息しか出てこない。
四人を待つ事なく、先に食事に箸をつけていた緑間は頭痛を堪える様にこめかみを押さえた。


「ふふふ、随分と好かれてるのね」
「……嬉しくないです」
「はいはい」


『お母さんはわかってますよ』とは直接言わなかったが、目がそう言っていた。

そんな楽しそうな母親に対して出かけた溜息を、食べていたご飯と一緒に飲み込む緑間なのだった。





◆◆◆


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