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 島の南部にあたる港湾区画でもやはり先ほど鳴り響いた警報は聞こえていた。しかし南部地域は北部地域や島中央部に比べればいくらかおとなしい。まぁ人があまりいないというのがあるのだが。

「で、おじさんは私に何の用かな」
「お嬢ちゃん、あんたこそ俺に何か用があるんじゃないかい」

 乾かした服を身に纏った少女、真空 瑠奈は自然公園の方から港の方に足を向かわせた。誰かしら、人を探してである。浜に打ち上げられていた彼女は今の自分の状況を詳しくは理解をしていないためだ。それでも鳴り響いた警報、難破した舟などから混沌めいた状況であることは理解できたが。
 ……だからだろう。彼女は内心舌打ちを打つ。彼女にとってこの状況は芳しいとは言えない。目の前にいるのは年を召したおっさん。また姿から彼は盲目だと推理できる。……あわよくば同行者を得ようと考えていたが役に立たないだろう。むしろ足手まといだ。

「そういえばおじさん、さっき警報鳴ってたけどなんか知ってる?」
「そうだな。知ってると言ったら」

 そう言って目の前の男、須崎 真吾は彼女を品定めするように見る。……まあ実際には見えてはいないのだろうけど。

「教えてよ」
「……そうだな」

 彼の反応に、彼女は笑顔になる。無邪気さを装ってはいるが心の中は打算だらけだ。しかし彼が次に発した言葉は彼女の想像したのと違っていた。

「……お嬢ちゃん、あんたは一番価値のあるものはなんだと思う?」
「唐突だね。……そうだなぁ」

 試すような彼の発言に対して彼女は少し間を置く。正直瑠奈にとってみれば自分の作る武器の事ぐらいしか興味はない。

「私の作品かな。あと一応命」

 彼女の答えに彼はキョトンとしたあと、興味深そうに口角をニィッと上げた。その姿に彼女はめんどくさそうな顔をする。

「……っくははは。あんた、面白いな。作品とは想像してなかった。金とか即答されるよりよっぽど良い。しかもこれが本心ときた。気に入ったよ、お嬢ちゃん」
「それはどうも。ところで、結局のところ教えてくれるの?」

 彼女の平坦なその言葉に彼は愉快そうな顔をして返す。

「構わないが……タダという訳にはいかないな。お嬢ちゃん、あんたは見返りに何を俺に提供できる?」
「……私の腕は安くないよ」

 彼女は彼の言葉に強気で返す。実際にそう思っているだろうし事実だろう。彼はそんな彼女にさらに興味を強める。

「俺の情報だってあんたにとっては安くないはずだぜ。なんせあんたはこの島について無知だ。土地も状況も」

 そう言った男だが彼は何となく分かっていた。それでも彼女は自分の腕の価値は下げないと。

「……そうだね。おじさんの言う情報の重要性はわかるよ。……でもその情報の価値自体は高くない。だから……いらない」

 彼女はそう言って内心悪態をつきつつ踵を返す。しかし彼は堪えきれなくなったのか大笑いを漏らす。

「くっははは、かはは。あんた最高だよ、お嬢ちゃん」
「あっそう。じゃあ」
「……まぁ待て。教えてやるよ。気が向いたし」

 立ち去ろうとする彼女を彼は呼び止める。彼女はぴくりと立ち止まる。

「島の北にある連絡橋でテロ事件だ。それにより島は文字通り孤島だな。テロリストと島で暫く同居だ」
「……それにな、一部市民が暴徒化したって噂だ」
「ふーん、そう」

 彼女はそっけなくそう言うが顔には隠しきれない歓喜が滲み出ていた。……ゾクゾクとかけ上がる悦びに手が震える。だって私の作品は

「嬉しそうだな、お嬢ちゃん」
「うん。嬉しいよ」

 ……武器なのだから。

「まったく、いけないお嬢ちゃんだ。他人と他人のケンカに油をぶちこみ燃える様に欲情する」
「ダメかな?」

 男の言葉に彼女はフッと笑いそう言う。

「いいや、ぜんぜん。ついでだ協力してやるよ」
「足手まといにならないでよ」
「たかだかお嬢ちゃんみたいなガキに遅れをとるわけないだろ……場数が違うんだよ」
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