cp

□誘う
1ページ/1ページ






当時、魔法薬学はあまり人気ではなかった。

その難しさからか教授は生徒に意欲的に学ばせようと時間を決めて教室を解放した。



それが実施されてから一週間が経つが使っている者はいない。一人を除いては




「(ニガヨモギの葉をすり潰して…)」



セブルスは、頭の中でそう呟きながら、一人夕日に照らされる教室で実験をしていた。

少し邪魔くさい髪の毛を短い束で後ろに結び、参考書を開いては真剣に読んで書き込む。


「やあ、セブルス」


ビクッ、としてセブルスは肩を震わせて声のした方を見るとそこにはマルシベールがいた。

その姿を見た瞬間、セブルスの悩内には嫌な想像しかできなかった。



「何の用だ」

「冷たいなぁ。僕は仮にも同じ寮生なんだからそんな殺気立たせなくてもいいじゃないか」

「…」



怪しそうに見詰めるセブルスに対し、マルシベールはニヤリと笑って近付き、机に手を付いて顔を覗き見た。



「それとも他の誰かに来て欲しかったとか?」

「何が言いたい」

「いや、君がただ僕以外の誰かを期待しているようだったからだよ」



マルシベールは鎌を掛けるようにくるりとセブルスに背を向けて回り、ニヤついた顔を見せないように喋った。



「ジェームズ・ポッター、シリウス・ブラック。最近はべったりだっ…」



急に肩を掴まれたマルシベールはされるがままに振り返らされてセブルスを見る。
セブルスは、怒りで眉を寄せて歯を食いしばる。




「そんな言い方は止めろマルシベール」

「ふ、わかったよセブルス。少し言ってみただけ」

「…」

「僕が何故ここに来たかぐらいセブルスにはお見通しなんだろう」



そう言うとセブルスはそうだと言わんばかりに目を逸らした。
わかりやすいセブルスに対してマルシベールはクスリと笑って机の上に軽々と座った。



「やっぱり、セブルスは頭がいいね。それに繊細だしね」


近くに置いてあった試験官を摘んでは見詰めてまた元に戻す。



「そんな理由だけで僕を誘おうとするなら無駄だ」

「まさか。セブルスとの利害の一致を僕が教えてあげるよ」

「利害の一致だと?」

「ああ、君は寮の外でも中でも良い生活をしているとは言い難いだろ?
だから、セブルスが僕らとともに死喰い人になるならば」



その先は言わなくてもわかるだろう、という顔をした。マルシベールの言いたいことはセブルスにも理解していた。

どこか心の奥で感じていたに違いない。



「ねえ、セブルス知ってるかい?この世で偉大なものが何か」



マルシベールは最後の押しと言わんばかりに問い掛けた。



「富?権力?地位?強さ?その全てを兼ね備えているのが…そう、我が君だよ」


誇らしげにそう答えるマルシベールを黙って見詰めるセブルス。
瞳が揺れ動く。



「まさに死喰い人は偉大な者たちが集まる組織なんだ。純血主義という魔法使いとしてはとても純粋で正しい考え方だと思う反面、やはり君みたいな半純血が生まれなければこの世界もまた消えていくものだと僕は思うね」

「でも、死喰い人とは純血しか集えないんじゃないのか?」

「確かにそうだけどセブルスって結構闇の魔術に詳しいんだろう?どうしてだい?」

「それは…闇の魔術が最も難しいとされているからだ」

「それだよ。君は闇の魔術が如何に偉大なものかを僕ら死喰い人より理解している。だから、僕は君を誘っているんだよ」



マルシベールはにっこりと笑って少し戸惑いを見せるセブルスに囁いた。



「セブルス、君は今の自分で満足かい?」


セブルスは目を見開いた。

「生まれ変わりたい、見返したいと思わないかい?」

セブルスの脳内にはふといつものジェームズとシリウスが思い浮かぶ。
虐められる毎日を思い出し、ふつふつと怒りが湧いてくる。




「振り向かせたい人がいるんだろう?」

「マルシベールっ」

「何故、その人が君に注目してくれないか知ってるかい?」



マルシベールはにやりと笑ってセブルスを見た。



「君が地味だからだよ」



胸に強く突き刺さる言葉にセブルスは酷く痛んだ。



「でも、死喰い人として偉大になれば…闇の魔術をもっと知れば…君に気付くんじゃないかな」



マルシベールはそう言って扉へ向かった。
一言も喋らないセブルス。


どうやら戸惑っているようだ。




「それじゃあ、セブルス。いい返事を期待しているよ」



笑顔でそう言うと困惑したセブルスを置いて教室をあとにした。



セブルスは知っていた。



誰も自分を見てくれないことも



好きな彼女とも距離が離れたことも



全ては自分が平凡で地味だから。無能だと思われているから。



もっと勉強して彼女に振り向いて欲しい。




「それだけが僕の願いっ…」




苦しそうに唸る声を上げてセブルスは拳を握った。




廊下を悠々と歩くのはマルシベール。

セブルスを思い浮かべては思わず笑いが込み上げる。


「気付いてくれるさ…憐れみの対象としてね」



だってそうだろう?


僕ら死喰い人は純血主義という範囲の狭い考え方しかできないんだから。


きっと、彼女は思うだろう…



どうして、と。


彼女自身のためとも知らずに。





20111207

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ