翡翠

□プロローグ
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ある古いアパート…


痩せた病弱な少年が、ヤクザ風のサングラスをかけた青年に見守られながら、オムライスをほおばっている。


「うん!おいしい…おいしいよ!!こんなの食べたの…久しぶりだ…ぐずっ」

「そーかそーか!泣くほどうめぇかボウズ!俺様特製オムライスは!」

「っ!ゴホゴホっ」

「おい、落ち着いて食えって…」

青年が少年の背中をさする。

「えへへ…ごちそうさま!」

その笑顔の下の皿はキレイになくなっていた。


そして、青年が食器を台所にか片付けた後、名残惜しそうに言った。

「じゃあ、俺様そろそろ行かねーと…。」

とつぜんの別れに、少年は泣きそうな顔をした。

「もう、いっちゃうの?」

「そう泣くなって!いいもんやっからよ。」

青年はしゃがみこんで、二つのものを差し出した。

「めいしと…みどりの勾玉?」

これに何の意味があるのだろう?

「そうだ。名刺は俺様の名前が書いてある。
今度恐いオヤジ共が来たらそれ見せてやれ。きっと、尻尾巻いて逃げ出すぜぇ。にゃはッはッはー!」

愉快愉快ー!

黒い笑いを漏らす彼は実に楽しそうだ…。

「にゃ…にゃは?」

ちょっと引く少年。

「お、で、その勾玉だがよ。」

笑っている場合じゃない。
一刻もここを離れないと…。



そう思いながら、真剣な顔で青年は続けた。

「それを、ボウズ、お前に預ける。
今、これは、ワルーイ奴らに狙われているんだ。」

狙われている?

勾玉を光に当てると、キラッと輝いた。

キレイな石だもん。きっとみんなほしいんだな。

「ワルーイ奴らって、いっつもぼくんちに怒鳴り込んでくるやつら?」

「いや…。それよりもっとタチがわりぃ。
このまま俺が持っていたら、奴らに奪われちまうかもしれん。」

「とられたらどうなるの?」

すると、青年はさっきとは違い、おちゃらけた表情で言った。





「世界が吹っ飛ぶ。人類滅亡チャンチャン。」

ほんとはもっとヤバいけどな。

「ええええぇ!?」

じ、じんるいめつぼーって…

何それ?

「まあ、そうならないためにも、俺様は一旦お前にそれを預ける!」

「な、なんで?」

彼はただただ疑問だった。

そんなにだいじなものをなんでぼくに預けるんだろう?
つい二時間前に始めて会ったのに…。


青年はまた真剣な顔にもどり、

「それはな、お前にしか出来ないことなんだ。お前にしか、頼めない。」

「ぼくにしか…?」

「だから、お前に託す。ただし、この事は絶対に誰にも言うな。石を見せびらかすな。

俺様がいつかそれを取りにくる、その時まで…」

ぎゅ…と勾玉を少年に握らせ、優しい声で、けれども強い意志を持って言った。

「この石を…守ってやってくれ…頼む…!」

少年は今まで煙たがられたこそすれ、今のように必要とされたことがなかった。

そのため、彼の言葉にどう反応すればいいのか分からなかった。

でも

(…この人はぼくを必要としてくれてる…だったら、ぼくはそれに答えたい!)



「うん…わかった!ぼく、この石を守ってみせる!!」

彼は決意に満ちた目で、青年を見た。

青年は、それに満足したように、ニカッと笑い、

「男らしくなったじゃねぇか!気に入ったぜぇ!」

ワシャワシャと少年の頭を撫でた。

少年もニカッと笑った。








「じゃあ、今度こそ行くわ。
ちゃんと持ってろよボウズ!」

「まって!」

少年は悲しみをこらえながら、ドアに手をかける青年に叫んだ!

「つ…次会った時、ぼく、あなたみたいな強い男になるっ!…ひっく…だから…ぐすっ…また、オムライス作ってね!!」
最後の方は泣いてしまったけど、言いたいことは全部言えた。


一瞬ボーゼンとした青年だったが、すぐにまたニカッと笑い、つけていたサングラスを少年にかけた。

「…?」

そのサングラスは、彼には大きすぎてずれてしまった。

「わかったよ。それが似合うようになったころに、お前んとこに行くよ。

だーかーら、全部任せたぞ!男と男の約束だからな!!今日助!!」

少年は、涙でクジャグジャの顔を、とびきりの笑顔にして言った。

「うん!ヤクソク!!」


手の中の勾玉が、キラリと光った気がした。













そして

彼があの青年に会うのに、実に12年の時が流れ



痩せた病弱な少年は、

サングラスの似合う青年へと成長していた。







これは、そんな青年、
吾妻今日助の

命やその他諸々を懸けた物語…。
 

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