宝物
□時は流れても
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◇時は流れても◇
「まあ、綺麗…」
彰子は目を輝かせて、自分の目の前にある薄桃色の花を見た。
「最近見つけたんだ。彰子が喜ぶと思って」
昌浩と彰子は、大きな一本桜の前に立って、それを見上げていた。
いつもは白い物の怪と一緒にいる昌浩だったが、今日は二人だけで見に行きたいところがあったので、物の怪を邸においてきたのだ。
…抗議は、帰ってから聞くことにして。
「彰子、ちょっとこっち向いて」
「え?」
そう言われて昌浩の方を向くと、耳に、そっと何かが触れた。
「なに?」
不思議に思った彰子が思わずそこに手を伸ばすと同時に、かすかな甘い匂いが、鼻腔をくすぐった。
「桜…?」
「うん。彰子、よく似合う。春って優しくて暖かいから、何だか彰子みたいだ」
そう言って屈託なく笑う昌浩に、彰子はふわりと微笑んだ。
「ありがとう」
瞬間、昌浩の顔が赤みを帯びる。
それを隠すかのように、わざとらしい仕草で彰子から顔をそらすと、昌浩は舞い落ちる桜をつかみ取るように手を広げた。
「ね、彰子知ってる?」
「え…何を…?」
桜の花びらを見ながら問う昌浩に問い返すと、昌浩はふいに彰子の方を見て、笑った。
「桜の花びらを地面に落ちる前につかめたら、願い事が叶うんだって」
そう言って、昌浩は広げた手を素ばやく閉じると、彰子の方に近寄った。
そして彰子に見せるように、ゆっくりと掌を開く。
「あ…昌浩、すごい」
目を輝かせる彰子をふいに抱きしめて、その耳元で、昌浩は小さく言った。
「彰子の願いも、俺が叶えるよ…」
俺の願いは、君と、ずっと一緒にいられること
(願わくば、貴女もそうでありますように)
ずっと、彰子を一番に想う
(そう、見返りなんていらない)
時は流れても
変わらぬ想いを
貴女にーー…
ー了ー