てにす
□もう手遅れ
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『千歳を怒らせ隊!』
「は?」
財前くんにそう言ったらめっちゃ変な顔された。
いや、変な顔って言っても元がカッコイイから変な顔じゃなくて、でも普段と比べたらなんとも言えない微妙な…いやそんな事どうでもいい。
『だから、千歳を怒らせ隊!私隊長ね!』
「はぁ、頑張って下さい。俺も暇すぎる時にフッと一瞬だけ応援しますんで」
『なんて儚い応援…!そうじゃなくて財前くんが副隊長で、私が隊長なの!』
「はぁ?」
『…財前くんが隊長でも全然いいんだけどね!今から財前くんが隊長で、私が副隊長ね!』
「はぁ?」
『や、あの…』
「はぁ?」
『…財前様のお力をどうかこの無力な小娘にお貸し下さいませ…!』
「いいっすよ」
何この後輩めっちゃ怖い。チンピラみたいな顔された…
いや、チンピラみたいな顔って言っても元がカッコイイからそんなにチンピラみたいじゃないんだけどカッコイイから余計怖いみたいな…いやそんな事どうでもいい。
「千歳先輩を怒らせたらえぇんですよね」
『うん!千歳さ、私がワガママ言っても怒らないんだよね…だから怒った千歳が見たいって言うか、色んな千歳の表情を見せてほしい、みたいな』
「その辺はどうでもえぇっすわ。今日の放課後の部活、先行かんと下駄箱に居って下さい」
『どうでもいいんかい!了解です隊長!』
財前くんに言われた通り放課後の部活に先に行かず下駄箱で財前くんを待つ。ようやく来た財前くんはダルそうに私の横に並んでナチュラルに私の手を取った。
『うえええ!?』
「いきなりどないしたんすか…鼻から毛虫でも出たんですか?」
『何それ気持ち悪っ!そうじゃなくて、手!』
「千歳先輩を怒らせたいんちゃうんですか?」
『怒らせたいよ!』
「彼女が他の男と手ぇ繋いどったら怒るんちゃいます?」
『なるほど!財前くん頭いいね!いい子いい子!』
「あんま調子乗らんといて下さい」
『痛い痛い痛い痛い!財前くん手が痛いよ…!』
そのまま部活に向かえばフェンスの向こう側に居る部員の注目を集めた。
中に千歳も居るのが見えてこっそりガッツポーズしてしまった。
「ななし」
『なぁに?謙也くん』
「お前なんで財前と手ぇ繋いどんねん!」
『謙也くん…ヤキモキ?』
「なんでやねん!」
『じゃあ謙也くんとも手を繋いであげようじゃないか!』
「いらんっちゅーねん!」
『うわ、謙也くんの手…手汗でベタベタする…』
「お前なんか嫌いや!」
謙也くんが泣きながら走り去ってしまった。
だって本当に手汗が…なんて考えてたら頭に軽い衝撃が。
「いじめたらあかんよ」
『千歳…!』
「分かった?」
『う、うん!』
「ほいならよか!」
あれ?怒ってない?
おかしいな、財前くんの完璧な作戦が効かないのか。恐るべし九州男児。
気づいたら右手が千歳に握られていた。
繋がれてるんじゃない、握られてるんだ。
『いいいいいい痛いっ!』
「騒いじゃいかんばい。」
『あう…痛いよ、千歳』
「んー?」
『うぅ…なんだってそんな握るの?私の右手に何か恨みでも?…わ、』
右手所か左手も握られてそのままガシャンとフェンスに押さえ付けられた。
『近、』
「恨みはなかよ。まぁ、しいて言うんなら…」
『や、千歳、待っ…!』
耳元でいつも以上に低く色っぽい声で言われて頭がオーバーヒートしそうだ。
「あんまり他の男と仲良くしたらいかんばい」
『う、あ…』
「返事は?」
『は、はい…!』
「ん、いい子やね。」
「こらバカップル!コート内でイチャつくな!」
「あちゃー、怒られたっちゃ」
「当たり前やろアホ」
白石くんからのお叱りの声でようやく千歳から解放されてそのまましゃがみ込んで、膝に顔を埋めた。
「パンツ見えてますよ」
『パンツとかどうでもいい』
「水色の水玉パンツ見えてますよ」
『変態!金払え!』
「千歳先輩、怒りました?」
『うん。怒ってた。だいぶ』
「で、感想は?」
『めっちゃカッコよかった…』
もう手遅れ
どんな君も好きだなんて、もう手遅れ
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変に心広くてでも変に心狭い千歳とかいい。超いい。ってか財前くんがしゃしゃりすぎた反省。