てにす
□また明日
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『あ、』
「うわっ」
せっかく部活が休みで久しぶりに早く帰宅出来たのに母親におつかいを頼まれた。醤油とか重いし暑いから外なんかに出たくないけど今夜の晩御飯無しは嫌だから渋々買いに行った帰り道、珍しい人に出くわした。
『ちょ、うわっとか言わないでよ…地味に傷つく…』
「最悪っすわ…なんで外に居るんすか…」
『最悪とか言われた泣きたい。お母さんが醤油買いに行けって言うから渋々ながら買いに来たの。財前くんもおつかい?』
彼の左手には醤油とかお菓子が入ったビニール袋があって反対の手には携帯が握られたままだった。
相変わらず嫌そうな顔のまま可愛くない後輩は見てわかりませんか?なんて可愛くない返事をくれた。
『財前くん家も醤油切れるなんて、これって運命的な何かかな!』
「醤油で運命感じれるとか先輩の頭凄いっすわ」
『ほ、褒められたのに嬉しくない…!!』
ふいに歩き出した財前くんに吊られ自分も歩き出す。運がいいのか悪いのか私と財前くんは途中まで進むべき道が同じなのだ。きっと文句言われるな、なんて考えてたら
「なんで並んで歩くんすか」
『言うと思った、そう言うと思ってたよ財前くん!私の家もこっちなんだ。一緒に歩くの嫌?嫌なら私そこの公園で休んでから帰るよ』
「別に嫌なんて言ってませんやん。アホな事言うてないで早よ行きますよ。先輩が子供を狙う変質者に間違えられたらいたたまれないんで、」
『えぇー…?あ、りがとう…?』
結局途中まで一緒に帰る事になった私達だが如何せん話題がない。この小難しい後輩は何を言ってもいい反応をしないから。
『…財前くんさ、』
「はい」
『私の事嫌い?』
「は?」
『いや、なんかいつも嫌そうな感じだからさ…嫌われてるのかなーって』
足を止めた財前くんから少し遅れて私も足を止めた。財前くんは珍しく驚いた顔をしてて、私はそんな財前くんに驚いた。
『えぇー…なんでそんな驚いた顔してるの…私も驚いたじゃん』
「先輩、めっちゃ鈍いっすね」
『鋭くはないけど鈍くはないよ!多分』
「いやだいぶ鈍いっすわ。あーびっくりした」
『棒読みすぎる台詞ありがとう。』
再び足を動かしはじめた財前くんに追い抜かされ小走りで横に並ぶ。
『結局さ、財前くんは私の事嫌いじゃないの?』
「嫌いやったら並んで歩きませんわ」
『だったらなんで嫌そうなの?』
また立ち止まる財前くん。今度はちゃんと私も財前くんの隣で止まった。辺りはすっかり暗くなっていたけれどちょうど真上で光る街灯のお陰で暗くない。
『財前くん?』
「俺、今めっちゃ手抜きな格好やないっすか。髪もぐちゃぐちゃやし」
『手抜き…かな…?髪も学校で見るのと違って新鮮な感じするけど』
「醤油持ってるし、こんなん格好悪いやないっすか。」
『私も醤油持ってるんだけど…』
「先輩に会うって分かってたらもっとちゃんと服決めたし髪型も治したし醤油なんか買いませんでしたよ。」
『なんで?』
「…ほんまに鈍いっすね。普通好きな人の前やったら格好よくいたいやないっすか」
『あぁ、そっか!なるほ…ど、えぇ!?財前く、えぇ!?』
「うるさいっすわ。近所迷惑って言葉知ってます?」
『ご近所トラブルはダメよね!いや、そうじゃなくて…!!』
「俺こっちなんで」
『え、ちょっと待っ』
「ほなまた明日学校で。」
スタスタと歩き去って行く財前くんとは裏腹に私はポカンと立ち尽くしてしまった。脳内で何度も財前くんの台詞を反復してようやく自体を飲み込んだ私は家までダッシュした。
「遅い!!なんで醤油買いに行くだけで1時間もかかるの!!」
背中に母親の怒声を聞きながら部屋に入りベッドにダイブ。ケータイを見ればメールが1通、差出人は言わずもがな彼で明日は朝から気合い入れてオシャレしようと思った。
また明日
(返事は明日聞かせて下さい)使い古された台詞だけど効果はバツグンだった。