てにす
□.
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キュッ、キュッ、と独特な音と匂いを撒き散らしながら作業を進めていく。
「何やっとんの?」
『あ、白石くんだ!珍しいね、部活に遅刻なんて』
「残念やなぁ、遅刻やないねん。委員会やってたら遅くなったんや」
『なるほど!確かに白石くんが遅刻とかありえないよね!』
「どうやろなぁ、俺かて人間やから遅刻くらいすんで。で、ななしはマジック片手に何やっとるん?」
自然な動作で隣に座った白石くんが指したのは私の手元。グチャグチャと机に広げられているのは全部私の物だ。
「名前書いてるん?」
『そうなの聞いてよ白石くんー!』
今私は学校で使う物全てに名前を書いている。
そもそも私がこんなめんどくさい事をやりだしたのには訳がある。
『私ね、よく物を無くすでしょ?』
「まぁ、週に3回は何か探してるよな」
『え、そんなに!?でね、今日は数学のノートが見つからなくて小春ちゃんと探してたら一氏くんがキレて名前書けって言うの!今時小学生でも名前なんて書かないのに!』
小さくなった消しゴムやツルツルするシャープペンは名前が書きにくくて作業は全然進まなかった。
「実はな、ななし」
『うん』
「委員会帰りの俺は偶然にもマジック持ち合わせとんねん」
『うん』
「反応薄っ!手伝ったるって意味なんやけど伝わってへんの?」
『え!ウソ!白石くん大好き!!』
現金なヤツだと私の頭を少し乱暴に3回撫でてから白石くんはノートを1冊手にした。
「間違えて白石って書いたら堪忍な」
『私いじめられちゃうよ!ちゃんとななって書いて!』
「はいはい、っと、出来た。」
『わ、白石くんすっごく字キレイだね!』
「緊張しながら書いてるからや。慣れてきたら汚ななるよ」
『えー、じゃあずっと緊張してて!』
「ほななるべく緊張しとくわ」
白石くんの手伝いもあってあっという間に私の広げた荷物は片付いてしまった。
『あとノート1冊!白石くん書いてくれる?』
「ええよ」
『やった!本当にありがとね!なんかお礼しなきゃだね!』
「ただ名前書いただけなんやからお礼なんてええよ」