家族シリーズ

□乾杯
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リボーンへの報告を済ませた翌日の夜。
第2会議室で定例の守護者会議が開かれた。といっても幹部や同盟ファミリーのボスを交えて行われるような堅苦しいものではなく、アルコールやおいしい食事をつまみながら他愛のない会話を楽しむ親睦飲み会のようなものだ。
余程の重大事がない限りは。
 
その日にツナは守護者達に妊娠を告白した。
勿論、皆大いに驚いていたが心から祝福してくれた。

「それは極限めでたいな!!」

「・・・フ〜ン・・・・・・・」

「おめでとうございます・・ボンゴレ」

「おめでとう、ボス、獄寺さん」

「よし!!今日は祝杯だ!ほら、ツナ、獄寺座れよ。今日は俺の特製寿司を食わせてやる」

気の置けない仲間とはいえ、突然の妊娠に迷惑をかけてしまうこともあるだろう。いくら獄寺がサポートするとはいえ獄寺とツナだけの力ではボンゴレは回っていかない。人一倍周りに気を遣うツナはただでさえ多忙な守護者に更なる負担をかけてしまうことを申し訳なく思っていたが、そんなことを気にするものはいなかった。
ただ、素直に新しい命の芽生えを喜んでくれた。
2人も素直に嬉しかった。
 
それから、深夜まで賑やかな宴は続いた。
山本は新鮮な海の幸を鮮やかな手つきでさばき、見事な御作りと握り寿司を振舞ってくれた。悪阻で生ものが食べれないツナにはあっさりとした鯛茶漬けを用意してくれツナは、これなら大丈夫と喜んで食べた。
雲雀は「飲みたくなったから」と秘蔵の日本酒を出し(彼なりに2人を祝ってくれたのだろう、勿論決して言葉にはださないが通常より饒舌であった)、了平は未成年のランボにも
「めでたいのだからお前も飲め!」と無理やり飲ませひと口で潰れてしまった。
クロームはツナのお腹が気になるらしく「触っていいよ」と言うとそっとまだ形をなさない腹部を撫でた。

「・・・で、式はいつにするんだ?」
元々アルコールに弱く、少し摂取するだけですぐに赤くなり呂律の回らなくなる獄寺はすでにほの赤く頬を染め、体内のアルコールを消化するため炭酸水を飲んでいた。
山本が片手にグラスをもう片方に雲雀からくすねた翡翠色の酒瓶を持ち、獄寺の隣に座った。
手酌で酒を注ぐと、透明な純米酒がグラスの中で揺れる。
山本もかなり飲んだはずなのにちっとも酔った様子なく、普段と変わりなくけろっとした口調である。
「・・・・まだなんだよ・・」
「何が?」
獄寺はごもごもと口を動かした。それはまるでいいにくいことがあるかのようである。
「まだプロポーズしてねぇんだよ・・」
「・・・え・・・?マジで!!?何でだよ!?」
この男、実はツナよりもロマンチストで乙女座なだけに乙女なのである。
そんな獄寺が人生で最高にロマンチックなはずの永遠の愛の誓いの序章
である「プロポーズ」をしていないとは!?
俺はてっきり超ムードのあるところで思いっきりベタなプロポーズしたのかと思ってたぜ・・
意外な事実に山本は開いた口と目が動かない。獄寺はテーブルに肘をつき決まりが悪そうに顔をそらした。
「・・・タイミングを逃しちまった・・」
病気だとツナのまさかの妊娠、愛しい人の体内に宿った自分の血をひく
小さな命の誕生に驚きとそれを超える喜びを噛み締めていた。
しかし、現実は夢のような喜びに浸っている暇を与えてくれなかった。
これからのことを考えたり、リボーンへの報告をしたり、目の前のするべきことに流されてしまい、完全にタイミングを逃してしまった。
一番大切な「プロポーズ」が流れ獄寺自身どうすればよいか彼は人知れず
悩んでいたのだ。
「こういうのはちゃんとしないとダメだぜ」
「うるせぇ!そんなことテメェに言われなくてもわかってんだよ!」
勿論、結婚し晴れて夫婦となり子どもを迎えるつもりだ。
十代目だってそれを望まれている。
遙か昔から恋焦がれ、想い想われてもなおあの方への愛は膨らみ続ける。
その永遠の愛の形を渾身の言葉で伝えたい。
「まぁ、あんまり考えすぎるなよ」
昔からこうなのだ。ツナのことに関しては驚くほど慎重で臆病、考えすぎて動けなくなってしまい、最終的にはツナが手を引いてやらねば歩けなかったほどに。
なので、2人の仲が進展するまでどれだけの面倒と時間がかかったことか。
中学生の頃から2人を見ている山本はよく理解している。
「・・ツナを幸せにしてやれよ・・」
かつて、彼と同じように彼女に恋をしていた。その思いを受け取ってもらえなかったけれど、仲間という絆で結ばれた彼らは離れることはなかった。
彼にとってツナは大切な人、という想いはあの時と変わらない。
「ツナを泣かせたら・・俺が横からかっさらうからな」
「何だと・・!?お前には死んでも渡さないぜ!・・俺の全てをかけてあの方を幸せにする」
山本の言葉は半分冗談、半分は本気だ。彼の薄茶の瞳が物語っている。
しかし、かっさらったとこで俺じゃダメだろうな
ツナを幸せに出来るのはお前だけだぞ
獄寺隼人!
思いを込めて獄寺の背中を思い切りばしんと叩くと、彼は眉間にしわを寄せ痛みに顔を歪める。
いきなりなにしやがんだ、この野郎といいたげに獄寺は山本を睨むが山本は気にせず酒を飲み続ける。


「・・・山本・・」
「何だ?」

「・・・・・・・さんきゅ・・」
「・・おぅ♪頑張れよ!」

テーブルに置いていた酒瓶を獄寺のグラスにつぎ
チン、と2人の男は小さく乾杯した。

                        FIN

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