短編集

□サヨナラなんて言いたくない
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サクラが舞い、散っていく……――。



僕の思いもサクラの花びらと一緒に今日、散っていく……――。













サヨナラなんて言いたくない











中学最後の制服。胸に紙花のコサージュを付けて僕は……体育館で級友達と一緒に涙を流していた。


目に浮かぶは君との思い出。


その一つ一つが輝いていて僕には眩しい。





でも、もう君と思い出を作る事なんてできない。


友達じゃない、ただのクラスメートの僕らだから……。
卒業と同時に終わる関係。




僕の中にある思い出も君に、とっては何の変哲もない日常。



そう思うと切なくて僕は、皆とは違う涙を流した。









式が終わって、最後のホームルーム。
この時間が終わったら、僕は彼を見る事もなくなる。



気持ちも伝えず……。
ただ、胸が焦がれる、この思いだけが残るだけ。






「サヨナラなんて言いたくない。」
「えっ!?」




ボソリと呟く僕に彼は、驚いた表情で振り向いた。


ほんのり窺える涙。
赤い色の注す目は、僕を捕らえて放さない。





そんな目で見詰めないで…。
卒業式に託つけて、とんでもない事を口走りたくなるから――…。


僕は彼から視線だけを放すと、不貞腐れたような表情で突っ伏した。











ホームルームが終わり、教室は写真大会。
あちらこちらでシャッターを押す音が聞こえ、その中に自分もいた。




できる事なら彼と写真を撮りたい。
でも意気地無しの僕には誘う勇気なんて塵ほどもなくて……。
仲の良い友達とばかり撮っていた。



「お前、泣きすぎじゃね?」
「僕が、涙脆いのは知ってるくせして、そんな事、言うわけ?」
「まぁな。その涙脆さも当分、見れないから言ってみた。」



卒業するから泣いているわけじゃないのは僕が、よく分かってる。
でも、それを友達に知られるわけにはいかなくて僕は、嘘をついた。

殆ど本当の事だから、別に嘘って事でもないよね。





チラッと僕は、彼の方を見る。




彼は楽しそうに友達と写真を撮っていた。



距離にしてほんの数メートル。声を掛ければ、きっと一緒に撮ってくれるだろう彼。
でも、僕にはできない。






だけど、カメラのフィルムを一枚だけ残しておくのは、僕の細やかな願い。











皆、保護者と帰って行く。
僕は、家が学校の近くだから一人で歩いて帰ると親を先に帰らせ校舎の中を歩いた。



窓の外をサクラが舞い、散っていく……――。


下を見れば繽紛としていて花びらの絨毯だった。





僕は、それに感嘆の声を漏らし吸い寄せられるように外に出た。



サクラ色の絨毯。
まだ、誰もそこに足を踏み入れていないのか綺麗なままだ。


雪ならば構わず踏み入れるけれど僕は何故か忍びなく思えて、ただ境に立って静かにサクラの絨毯と桜を見詰めていた。




「もう、卒業……か。3年なんて、あっという間だったな。
結局、言えず終いかぁ。」

僕は桜の木を見ながら独り言を呟いた。

それは寂しさと後悔そのものだった。




また、僕の目から涙が流れた。


「ホント涙脆いんだね、立花君って。」


声の主に驚いて僕は声の方を向いた。


すると、そこには彼の姿があって、
僕は瞠目した。


なんで彼が?


もう、帰ったと思ってたのに……。



僕は、心の奥で期待していたくせに、そんな言葉が脳裏を過る。


「なんで、此処に?南君。」
「やっぱり、最後はケジメつけたいじゃん。」
「?」


南君の言っている意味が分からない僕は最大限に首を傾げる。


僕より少しだけ高い背。漆黒の髪と目。顔立ちも整っていて、そのくせ体つきはがっしりしている彼。
僕が、彼と同じなのは髪と目の色ぐらいだろう。

そんな彼を見るのも今日の今が最後。
 


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