短編集

□サヨナラなんて言いたくない
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僕達に
「またね」
なんて言葉は、きっとない。











それなら今、僕は君の姿を脳裏に焼き付けるよ。
ずっと変わらない君の姿を……。


いつか本当に思い出にできる日まで、ずっと覚えて胸を焦がすよ。




ちょっと、未練がましいけどね。





穴が開きそうな程に見詰める僕を見詰め返す彼の目が……――





もう、最後だよ。








と、言っているような気がした。







「あのさ……。」


そう、切り出した南君は僕の方に一歩、足を踏み出した。









「さっき、サヨナラなんて言いたくないって言ったよね?」




「えー、あー…うん。言った…けど。」

「あれさ、誰に向かって言ったの?」

「えっ!?……なっ…何で、そんなこと訊くの?」




告白できるような、こんな機会、もう2度とこないのに僕は逃げ腰だった。



君に…南君に向かって言ったんだ。








そう言えたら、僕は、どれだけ楽になれるのだろう。




でも、言わない。



……――言えない。





「何でって…気になった…から。
好きな人にでも言うんじゃないかと思ったんだけど…違うの?」


「言いたいけど……。僕には、言うほどの勇気がない…から。」

「そっか……。ねぇ、写真撮らない?」

「えっ!?…えぇー!!」

「そんなに驚くことじゃないだろ?友達なんだし、今日は卒業式なんだから。」




予想外な展開に僕は、ただただ驚くしかなかった。



でも、フィルムを一枚残しておいて良かった。



と、心底、喜んだのは言うまでもない。











ちょうど、通り掛かった先生に撮ってもらう時、僕は今日、一番の笑顔をした。



今日が最後だから……せめて彼の持つ写真の僕は無邪気に笑っていてもらいたい。


写真を撮り終えた僕は、また桜を見上げた。隣には南君が、同じように桜を見上げている。



時間が、止まったら良いのに………なんて思う。


「好き……。」
「!?」


ポツリと呟くような声音が南君の口から漏れる。



幻聴だ。


彼が僕を好きになるわけがない。
今のは、僕の切願が生み出したものだ。



僕の顔色を窺う彼を見ながら僕は、そんな事を考えていた。




「えっと……その…実は、俺ずっと立花君が好きだったんだ。あんまり話さなくて、特別、仲が良かったわけじゃないけど…。でも、ずっと好きだった。
卒業したら、もう会えないかもしれないから最後に気持ちだけ伝えたくて……。」



頬を赤く染めて僕に告白する僕の愛しい人。



夢なのかな?



夢でも嬉しい。



君が僕を好きでいてくれた事が、僕と同じ気持ちだった事が、堪らなく嬉しい。



その歓喜に僕は、涙を流した。



そして、僕は今なら言えると彼の手を取り
「僕も……僕も、南君が好きだよ。サヨナラなんて言いたくなかった。またねって言いたかったんだ。また会えるように。」
溢れ出る言葉達が口から漏れる。



「ホント?」
「うん。」



僕らは互いの言葉が嬉しくてサクラの舞い散る中で涙を流し簡易なキスをした。












サクラが散って、空を舞っている。




今日は、卒業式。
僕らが中学から巣立つ日。










そして…――











僕らの片思いを卒業する日。











その日、僕らは
「またね。」
と言って別れた。

 

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