CAIN
□06
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夢を見ていた。
藍斗と自分が、まだ高校生の時の夢。
まだまだ子供だった、あの時の夢を……。
すぅーと息を吸った自分は、その空気の異臭に目を覚ました。
ガシャガシャ
手を動かすと金属の擦れ合う音がして自分は両手を交互に見やった。
細い鎖が手首に着いた手錠から伸びて何処かに繋がっている。
しかし部屋がほの暗いせいか、何処に繋がっているかはよく分からない。
足は、鎖で繋がれていないようだが、数センチ自分が吊るされているのか爪先立ちをしていた。
不意に自分の体が視界の隅に入る。自分は、映る自分の体にまさかと思い視線を落とす。
一糸も纏っていない。
男にしては驚くほど女性に近い軟弱な体が露になり時折、吹き付ける風に震える。
何故、このような事にと顔を赤らめて手で隠そうとするが、それが叶うわけもなく……。それ以前に自分が何故こんな所に居るのかさえ分からない。
頭の中は霞が掛かったように、ぼーっとしていて上手く働かなかった。
寝過ぎたからだろうか?
「やっと、お目覚めかい?」
聞き覚えのある男の声がするが、誰だか分からない。
顔を上げ声の方に視線を移す。
そこに映るのは日本人の顔ではない、それ。見ただけで分かる。彼は中国人だ。
細くキリリとした目、薄い唇。黒い瞳は舐め回すように自分の方を見詰めている。
漸く、自分は思い出す。
何故、自分が此処に居るかを……。
彼を見る自分の顔が険しくなる。
「おや、おや、そんな顔をすると綺麗な顔が台無しだよ。」
「こんな風にされて平然な表情でいられるとでも?」
「……それも、そうだね。」
ジャラと鎖を鳴らし不満に言う自分に亨はクスクスと笑いながら答えた。
倉庫の一角だろう此処に今は自分と彼しかいない。自分が、この状態では人が居ても無駄だと考えたからだろうか。
後に自分は、この状況の意味を理解するのと同時に屈辱を味わう事になる。
睨み付ける自分を意味ありげに笑い見詰める彼は、徐に口を開く。
「田島渉という男は、私の部下が殺したよ。そして八坂も…ね。」
「な……何で、そんな事を俺に話すんですか?」
「君が知りたいだろうと思ってね。事の真相を。
まぁ、それも今の君には関係ないか。」
「えっ?」
気味の悪い笑顔を自分に向ける亨から逃げたいのに鎖に繋がれている為それは叶わない。
なんとか外そうと足掻いてみるが全く意味はない。
そんな事をしている間に彼は近付いて来てポケットから小さな薬瓶を取り出した。
中には白いカプセル錠が一つ、狭い中でころころと転がっている。
その瓶を自分に見せるように左右に振った亨は面白いものでも見るようにニタニタと笑う。その表情は気持ち悪いとしか言いようがなかった。
「この薬は媚薬でね。一錠、飲めば適量なんだけど私としては君の乱れた姿が見たくてね、適量の4倍を君に投与したよ。
もう、効き始める頃じゃないかな。」
「――ッ」
にっこり笑う亨に罵声の一つでも浴びせようとしたが、体全身が心臓になったかのようにドクン、ドクンと脈打ち、それどころではなくなった。