記念もの
□クリスマス君に愛を歌おう
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雪花が舞い散る夜。自分は一人、プレゼントの入った紙袋を抱き締めながらツリーの前に立っていた。
今日はクリスマス。雪も降っているからホワイトクリスマスだ。
ツリーの周りはカップルばかりで皆、幸せな表情を浮かべている。
そんな彼等を見ながら自分は早く待ち人が来ないかと、そわそわしていた。
待ち合わせは7時。彼の性格からすると10分は遅刻してくるだろうか。
そんな事を考えながら吐く息の白さを見詰めた。
「悪い、全。仕事が長引いて。」
「良いよ。時間もぴったりだし。ところで、仕事は、ちゃんと終わったの藍斗?」
「バッチリ!!」
息を切らす藍斗に首を振って答え案じ顔で尋ねると彼は、会心の笑みを浮かべた。
これで心置き無く2人の時間を過ごせる。自分は、ほっと安堵の息を吐いた。
「飯、食いに行くか?」
穏やかに微笑む藍斗に短く返事をすると自分は彼の腕に自分の腕を回した。
イルミネーションの輝く通りを歩きながら自分は腕から伝わる藍斗の温もりを感じていた。伝わる温度は仄かというのに自分は体の芯から温まった気がして、ほくほくした気分になる。
藍斗に連れられて自分が来たのは、明らかに高そうでミシュランにも載っていそうなレストランだった。
「藍斗、此処って高いんじゃ……。」
「金の事なら心配しなくても平気だぜ。俺が払うから。」
「いや、そういう意味じゃなくて……。俺には場違いというか不釣り合いっていうか。」
「そんな事ねぇよ。ほら、行くぜ。」
尻込みする自分を藍斗は強引に中に連れ込んだ。
中は、まるで別世界。外は、あんなに人の声やクリスマスのメロディーが溢れて騒がしいというのに此処は無音にも等しい。あるのは金属のカチャカチャという音とワイン等が注がれる音だけだ。
あまりにも経験のない空間に自分は腰が引ける。
そんな自分とは対照的に藍斗は堂々としていて場慣れしている。
流石、御曹司。
ふと、そんな言葉が脳裏を過る。
自分達はウェイトに先導され、恐らく一番、良い席だろう場所へ案内された。
そして、出される料理を口に運んだ自分は、あまりの美味しさに舌鼓を打った。
「此処の料理、美味いだろ。」
「うん。こんな美味しいの食べたの久しぶり。」
ワインを一口飲んだ藍斗は満足そうな表情を浮かべて声を掛ける。自分は、料理に、うっとりしながら言葉を返した。
自分の感想に彼は莞爾な表情を浮かべ、またワインを口に注いだ。
「なんか、ごめんね。」
「何が?」
「俺、こういうお金の掛かるプレゼントとかあげられないから……。」
「ばーか。誰が金の掛かるプレゼントが欲しいなんて言ったよ?
俺は、全のくれるもんなら何だって嬉しいんだぜ。変な気なんか使う必要なんかねぇよ。」
「うん。」
裏表のない藍斗の言葉に自分は欣々然という表情を浮かべながら料理を口に運んだ。
食べ終えた自分達はレストランから出ると花雪、舞い散る道を静かに歩いた。
そして雑踏を抜け人の少ない展望台に来た。下には街のイルミネーションや建物の明かりが、一つの大きなイルミネーションになり、とても綺麗なものだった。
「うわー、凄く綺麗だね。藍斗。」
「あぁ。
あのさ、さっきから気になってたんだけどさ。その紙袋は何だ?」
「んー、これは……。」
そう言った自分は手に持っていた紙袋を開け、中からマフラーと手袋を取り出した。
それ等は、この日の為に自分が作った物だった。
取り出した物を藍斗に渡すと自分は照れ臭くて笑ってみせる。
「買おうか、どうしようか迷ったんだけどね。やっぱり、手作りの方が気持ちも籠るし良いかなと思って。
初めて作ったから変かもしれないけど……。」
「そんな事ねぇよ。すっげぇ、嬉しい!!」
受け取ったプレゼントを早速、纏った藍斗は嬉しそうに笑って自分にキスをした。
そして暫くマフラーと手袋を肌で感じながら彼は、にこにことした表情を浮かべていた。最後には鼻歌まで歌いだす。
そんな彼を見ながら自分は、プレゼントを贈って良かったと小さく微笑んで綺麗な夜景に視線を移す。
夜景に見とれていると、藍斗が手袋の片方を外し、ポケットから指輪を取り出して自分の手を握る。
そして、指輪を左の薬指に嵌めた。
「藍斗、これ……。」
嵌められた指輪を見詰めながら瞠目し、それと藍斗を交互に見る。
「婚約指輪ってやつ。」
照れ臭そうに笑い言う藍斗の言葉に自分は歓喜極まって涙が流れそうになった。
嬉しさに言葉がでなかった自分は幸せな笑顔を彼に向けると彼の首に腕を回し感謝と愛を充分に込めてキスをした。すると藍斗の舌が中に入ってきて優しく愛撫でもするかのように捏ね回す。
「んっ、んー。」
「やべぇ、幸せすぎて、こえー。」
「俺も……。
ずっと、一緒だよね、俺達。」
「全が、嫌だって言っても俺は離れねぇよ。
地球が回るのが必然なのと同じ位、俺は全の側に居たいと願ってる。って、言ったろ?」
昔、藍斗が自分に言ってくれた言葉を聞いた自分は、愉悦して目から涙が溢れた。
昔も、この言葉を聞いて嬉しさのあまりに涙を流した。こんなに大切に思われている事が嬉しかったから。
「覚えてたんだ。……てっきり忘れてると思った。」
「俺は、そんな薄情な人間じゃねぇ。」
5年も放置したくせにという言葉が不意に浮かんだが、此処で言うのは間違いだと言わずに“そっか”と微笑んだ。
そして、藍斗に自分の言葉を贈ろうと口を開いた。
「藍斗。」
「んっ?」
「俺、この先もずっと藍斗を愛してるよ。もう、藍斗が居ないと生きていけないんだ、俺。」
「全……。」
自分の言葉が嬉しかった藍斗は自分を抱き締めると手を握り足早に展望台を後にする。
行き先も告げずに歩く藍斗に引かれながら自分は握られる手を見詰め幸せ気分を満喫していた。
そして自分が連れて来られたのは……。
「ラブホ……。」
外観を仰ぎ見る自分は、溜め息混じりに言った。
交わるのは良いが、自分はラブホでするのはあまり好きではなかった。しかし、藍斗は、そういうのに拘らないようで意気揚々と中に入った。
その後、自分は翌朝まで組み敷かれ、支部に帰って淳や蒔琅に、からかわられる破目になった。