記念もの

□夏の終わり僕らの始まり
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 暫くの間、花火を見ていると尋睹が前髪をちょくちょく横に掻き上げる。


「前髪、邪魔なんがぁ?」


「えっ、あっ、うん。目に入るんだぁ。」


「ふーん。……ちょっと、こっち向んね。」


 自身の方を向く尋睹の前髪に直哉は先ほど使ったヘアピンを浴衣で拭いてから付けてあげた。


「これしか持っちょらんけん。これで目に入らんで済むがよ。」


「あんがと。
 今日は、いろいろあんがとなぁ。何かいろいろ気を使わせだみだいだしぃ。」


「別に気なんか使ってねぇがよ。俺は、俺のしたい事をしただけやがね。」


 付けられたヘアピンを触りながら尋睹は嬉しそうに微笑んだ。彼の笑顔があまりに可愛かったので直哉は頬を赤く染めると、プイッと顔を背けた。


 打ち上がる花火を見ながら直哉は、もし今、素直に自身の気持ちを言えたら、もっと距離が縮まってキスとかもできるのだろうかと思うのだが、それを行動に移そうとはしない。


 長年、自身の気持ちを素直に表に出した事が皆無な直哉にこれ以上、距離を縮める術などある筈もなかった。


 取り敢えず、今は2人きりで花火を見れるだけでも良しとしようと直哉は夜空に咲き誇る花火と横目に映る尋睹の横顔を見ながら嬉しそうに笑った。


 すると尋睹が、ぎこちない手付きで直哉の袖を少し掴むと彼の肩に頭を乗せた。


「また、来年も一緒に行ごうなぁ。」


「…………あぁ。」


 不安そうな声音で言葉を紡ぐ尋睹に直哉は驚きの色を隠せない。


 普段、積極的な態度を自身に示した事がない尋睹が誘ってきたのだ。直哉が驚くのも無理はない。


 此処で、また照れ臭さのあまりに思っていない事を口にしては、いつもの繰り返しだと直哉は耳まで真っ赤にしながら小さく頷き言葉を返した。


 これを機に自身達の距離がもっと縮まる事を2人は心の中で切に願った。
 
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