記念もの

□君と出会った日
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「はぁ、流石、全がね。普通、腹立てないにしても良い気はせんね。哲史みたいな態度取られたら。」


 一区切り着いたところで直哉が沁々と言った。それに尋睹と蒔琅、作業をしている澪も、うん、うんと頷いた。


「にしても、全も一途やなぁ。全の探しとったの藍斗の事やろ?
 俺なら新しい恋を探すで。」


「お前と全を一緒にするな、馬鹿。」


 呆れ気味に言う蒔琅をいつの間に会議室に入って来たのか予算案を片手に持った淳が一喝する。すると彼の言い分が正しいだけに哲史達は力強く頷いた。


 蒔琅だけは不満そうな表情を浮かべ淳を睨み付けるが、文句の言葉は出ない。一応、言い合いしたところで勝ち目がない事は彼も理解しているようだ。


 そんな表情を浮かべる蒔琅を放置して尋睹が疑問の色を注した表情で訊く。


「それからは会わながったんかぁ?」


「名前、訊く、忘れた。事件、重なって、探せない。気付いたら、9月なってた。」


「そして、藍斗が戻ってきて全は幸せな生活に戻ったわけや。自分売り込むチャンスやったんに残念やったなぁ。」


 何の躊躇いもなく哲史の痛いところを突く蒔琅に悪気はない。


 彼の思った事は後先、考えずに言うのは注意したところで治らず、何より彼自身、気付いていないから質が悪い。


 天然のKYは手に負えないと、その場にいた全員が深々と溜め息を吐いた。


 彼等が溜め息を吐く理由が分からない蒔琅は首を傾げるばかりだ。


「なんや、俺、不味い事言ったん?」


「学習能力のねぇ、お前に説明する時間ほど無駄なもんはねぇな。」


「なんやねん、ケチ!!」


 溜め息混じりに言う淳に舌を出しながら細やかな文句を言った蒔琅は直ぐに後悔する事になる。


 淳が意地悪な表情を浮かべているのだ。その表情は、何処か楽しそうでもある。


 こういった表情をする時の淳は自身を苛める時だと経験上、分かっている蒔琅は苦笑いを浮かべ、その場から離れようとする。


 勿論、それが叶うわけもなく……。


「俺に文句を言うなんて偉くなったなぁ、蒔琅。
 立場ってもんを分からせないと直らないのか、あぁ?」


 逃げる蒔琅の肩を掴み、にっこりと笑う淳の目は全く笑っておらず若干、怒りに満ちていた。


 彼の声音から表情が容易に想像がつくのか蒔琅は彼に背を向けたまま短い悲鳴を上げた。


 尋睹と直哉は同情の目で蒔琅を見るが助け船を出すつもりは微塵もなく、藁すらも投げる気持ちはないらしい。ただ、じっと見て引き摺られるように会議室を出て行く2人を見送った。


 澪は、この光景を何度も見ているせいか呆れ気味に息を吐くだけだった。


 哲史に関しては、関係ないと言わんばかりに無表情のまま宙を見詰めている。


 彼の頭の中は全の事でいっぱいのようだ。


「全、遅い。」


「そういえば、もう4時になるがね。」


「あー、その事なんだが今日は外泊すると連絡があったぞ。」


「…………。」


 今日、全が帰って来ない事を知った哲史は言葉にしないものの多少なりのショックを受けたようで端から見ても声を掛け難い雰囲気を醸し出しながら会議室を後にした。


 部屋に戻った哲史は誰も居ない部屋に溜め息を吐き、シャワーを浴びると特注キングサイズのベッドに横になる。


 今朝は、此処に全がいて朝の挨拶をしたのに今は独り。


 独りでいる事は慣れていた筈なのに此処、数ヶ月いつも全達と居た為か寂しくてしかたがない。24にもなろうというのに大人気ないと哲史は自身に喝を入れるが、何の意味も果たさなかった。
 
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