記念もの
□君と出会った日
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尋睹に付き合って買い物に行っていた哲史は、全が何処にも行っていない事を願いながら尋睹と2人、支部へと帰ってきた。
支部のドアを開け、歩く尋睹を置き去りにロビーを走り抜け、階段を駆け上がると全が居るだろう会議室のドアを勢いよく開ける。
しかし、そこに全の姿はなく代わりに驚いた表情を浮かべた蒔琅と澪の姿があった。彼等は、それぞれの席に座り仕事が暇な事を利用して雑務をこなしていた。
支部の仕事は事件解決だけではなく、予算案の作成や人員の確保、訓練に使う備品の注文と帳簿の整理などの財務がある。
一旦、事件に入ると雑務をこなす事は人が少ないだけに困難で、こんな暇な時でもないとできないのだ。雑務をするのは特に用がない者で、今日は澪と蒔琅そして、自室で予算案を作成している淳と訓練室で備品の確認をしている直哉だった。
本当は全と藍斗も雑務をしている筈なのだが、藍斗が半ば無理矢理に全を連れ出した為、此処に居ないのである。
全が居ない事を予想はしていた哲史だったが、表情には出さずに落胆する。
「どうしたんだ、哲史?」
「あっ、全やったら藍斗と出掛けたまま帰っとらんで。」
澪の質問に答える前に蒔琅が言葉を投げる。
全が居ない。
哲史は落とした肩を更に落とした。確かに自身が居ない、この好機を藍斗が見逃すわけもない事は彼にも分かりきった事態だった。しかし、理屈では分かっていても心は承知しないのが人間である。
哲史は短い息を吐くと、トボトボと自身の席に座った。
全の所に速く帰って来たくて尋睹を若干、急かしながら買い物を済ましてきたというのにこの始末。哲史は、もう少し速く帰って来れば良かったと尋睹には悪いが溜め息を漏らす。
こうやって溜め息を漏らす間も哲史の表情は平静そのもので落ち込んでいるようには見えない。
「なぁ、全と藍斗は高校の同級生って話やったけど、全と哲史って、どうやって知りおうたん?」
作業の手を止め自身の席から立ち上がった蒔琅は藍斗の席に座りながら興味津々に訊いてきた。
本来ならこういった話はしないのが哲史だ。彼は少し秘密主義的なところがあって特に全と自身に関する事は話したがらない。しかし、全がおらず暇を持て余していた彼は蒔琅の方を見て暇潰しのつもりで話す事にした。
「あれは……。」
話し出そうとした哲史の口が止まる。
ちょうど会議室に入ってきた尋睹と直哉が蒔琅と同じように興味津々に近付いてきたからだ。
どうやら蒔琅の声は廊下にまで響いているらしい。
尋睹は全の席に直哉は自身の椅子を持って来て哲史の隣に座ると聴く体勢を整えた。澪も作業をする手は止めないが、しっかり聞き耳を立てていた。
「あぁ、俺達の事は気にせず話してええがよ。」
「…………。」
ニコニコしながら哲史が話すのを待つ直哉に哲史は黙って見詰めると小さく息を吐いて話し始める。
「去年の、4月……。」