短編集

□冬が終わる頃
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「なぁ、何処に行くの?」
「来れば分かる」

雪も降らなくなって桜の季節に近くなった頃。


朝、俺は尚隆に起こされ眠気も覚めないまま車に乗せられた。




行き先は不明。
尚隆は、表情にでないが上機嫌。


俺は、意味が分からないまま尚隆の車に乗っていた。






そして、着いたのは街の中にある寂れた教会。
中も年期が入っていて、一言で言うならボロだ。


こんな所で尚隆は何をしようというのだろう。


「座れ」

「あっ、うん」


言われて並んでいる長椅子の一番前に腰掛ける。
ギシシと軋んだ椅子は、全体重を掛けると壊れてしまいそうで俺は、できるだけ前に重心を置いた。



壊れるのではとビクビクする俺を気にも止めず俺の前に片膝を付いた尚隆はポケットから何かを取り出す。


そして、俺の左手を取ると薬指に何かがはまった。

「えっ、まさか……」

「結婚指輪だ。日本では式も籍も入れられんからな。何より会社のイメージに関わるから表沙汰にもできん
が、形ぐらいは…な」


「尚隆」

俺は嬉しくて尚隆に抱き付くとグシグシと涙を流した。



そんな俺を優しく抱き締めた尚隆は、耳元で囁く。

「鯨吾、愛している」

「俺も……」


夢のような幸せに俺は怖くなって抱き締める腕に力を入れた。

尚隆の香りと温もりが俺を包む。


それを感じると凄く安心する。




幸せだ。
素直にそう思える。









今日、俺たちは結婚した。

籍も式も指輪以外に形になるものは何もないけど、俺たち以外に知る者もないけれど、俺は凄く幸せだ。


春には新婚旅行にでも行こうかと画策した。
 

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