記念もの
□側にいたい
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ルンルンしている俺に尚隆は「気持ち悪い」とか「とうとうイカレタか」とか嫌味ったらしく言ってきたが全然、耳に入らなかった。
ただ、あまりの浮かれ過ぎに、その後の仕事はミスの連発。おまけに尚隆からは、
「少しはマシになったかと思えば、これだカス」
と言われ、いつも以上に扱かれた。
だけど、今日は早く上がって良いと尚隆のお許しが出て7時には退社できた。
が、外はバケツをひっくり返したような豪雨。殆んど会社に缶詰めだった俺の手元に傘はなく迎えを呼ぼうと携帯をポケットから取り出す。
ついてないなんて思いながらお付きの運転手のところに電話を掛けていると
「乗れ」
何処からか尚隆の声がして俺は電話を切る。
辺りを見回すと黒いBMWのM6に乗った尚隆が目に映る。
「乗っていいの!!」
目を輝かせる俺に「さっさとしろ」と尚隆に急かされ俺は大粒の雨に打たれながら車に近付く。この際だからこいつの隣に座ろうとドアを開け中に入った。
ランバン オム スポーツの香りが充満している車内。別に変わった所はないのに香りのせいか凄く大人の雰囲気を醸し出す。
乗ってるのが、こいつだからかな。
濡れた髪を弄っていると、タオルを渡され俺は遠慮なく、それで髪と濡れた服を拭いた。
そうしている間に尚隆はギアをガチャガチャと操作すると車を動かす。
俺の家を知ってるのか。
意外……。
最初の数分は静かにしていたが、なんか気不味い感じがして俺は、そわそわした。
だって、好きだって自覚したその日に2人っきりだよ。尚隆が相手だから、そういう事ないかもだけど色々、期待もしちゃうよな……。
けど、その前に俺の心臓が限界。さっきからバクバクなってて破裂しそうだ。
「あっ、あのさ」
「何だ?」
「瀧川は、何処に住んでんの?」
チラッとこっちを見た尚隆の目は「何だ、こいつ」と言っているように見える。
けど、俺は撤回しようとはしなかった。緊張のあまり、そこまで考えが回らなかったからだ。
煙を吐いた尚隆は
「赤坂だ」
と短く答えた。
それが開始の合図だったように俺は、家に着くまでの40分、ずっと尚隆を質問攻めにしていた。
「血液型は」「趣味は」「好きなものは」「嫌いなものは」
もう、好きな人の事が知りたい一心で訊きまくり……―。
尚隆に怒られたら止めようと思っていたけど、どういうわけか怒らないで俺の質問にめんど臭そうにしながらも答えてくれた。
会社とは違う尚隆の印象に俺の恋心は更にヒートアップ。
メロメロだ。
高級マンションに着いた車を指定の駐車場に止めると尚隆は傘を差し掛けてくれて俺は相合い傘で部屋に帰る。