記念もの

□側にいたい
4ページ/18ページ

「冗談を言っている暇があったら早く仕事捌いてほしいもんだな」


瀬川の後ろで腕を組みタバコを吹かす尚隆。組んだ手の片方には数枚の紙が握られている。

自覚して、あいつを見ると胸がドキドキする。なんて正直な……。



これで他人に言われて自覚するなんて俺も鈍いなぁ。



後ろからの不意討ちにビクッと体を震わせた瀬川は軽く会釈して自分の席にそそくさと戻った。



俺の前に足を進めた尚隆は持っていた紙を俺の机に無造作に置く。

「次は、これに書いてあることを企画書にして俺に見せてみろ。時間は2時間。代替案まで考えておけ。時間厳守だ」


「うげぇ……」



俺の口から思わず声が漏れる。

まったく、こいつにときめいてる暇なんてありゃしない……。




資料を渡した尚隆は、さっさと自分の席に座り自身の仕事をする。
その仕事の速さは親父の折紙付き。1日に大量の仕事をこなす。それも迅速且つ丁寧に。



完璧なまでの仕事に周りの人間は一目置くが、人間性は欠き会社の中でのあいつの評価は最悪。

だけど、結構、良い所もあるし仕事のできる男の人はカッコイイと素直に思う。






そんな事を考えていた俺は、10分のロスを食らい慌てて企画書の作成に掛かる。


これが、また大変で企画案なんか欠片も出てきやしない。悩んでいる間も時間は刻一刻と過ぎていく。




2時間後、俺は練りに練った企画書を持って尚隆の所に行く。



「できたのか?」

タバコを灰皿の上に置き睨むような目付きで訊く尚隆。


その目が、怖くて俺は思わず後退りしそうになるが、寸のところで踏ん張り企画書を渡す。


企画書をパラパラと流すように見た尚隆は、それをポイっと机の上に投げた。

それが何を意味しているか分かってるから俺は、逃げ出したくなる。




ボツだ……な。



また、嫌味か……。


「企画としては悪くない。だが、予算の掛かりすぎだ」

「それは、予算を直せばOKってこと?」

「そう言ったつもりだが?理解できなかったのか?」
馬鹿にしたような尚隆の目も今は、気にしない。



褒められた!!

1週間、指導された中で初めて……。
俺は、飛び上がって喜びそうになるのを堪えながら企画書を取ると席に戻って予算を組み直した。



仕事のスピードなんてさっきまでとは違う。あいつに認められたような気がして、もっと褒められたいと俺の発揮する力が格段に上がる。





それから30分もしない間に予算を考え直して持って行くとOKを貰えた。


 
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ