記念もの

□側にいたい
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散々、嫌味な言葉を吐いた尚隆は踵を返して何処かに行ってしまった。



一人、残された俺は落ちた資料を全て拾い、また机の上に積み上げると徹夜確実の仕事に打ち込んだ。








仕事が一段落付く頃には、ブラインドから朝日が漏れ出していた。



眠気は神経的なものが麻痺していて感じないが、パソコンの画面と小さい字の資料の見すぎで目が痛い。

椅子の背に凭れ左腕を目の上に乗せて唸っていると額に冷たい物が乗り俺は短い悲鳴と共に飛び上がる。



「朝から五月蝿い奴だな」

呆れ顔の尚隆の顔が映る。
その手にはコーラのペットボトルが握られていた。




尚隆とコーラ。すげぇミスマッチ。こいつでもコーラなんて飲むのか。
ブラックコーヒーと酒もしくは水しか飲まない印象を受けるのにコーラを飲むなんて意外だった。


「瀧川でもコーラなんて飲むのか?」


「俺が、こんな甘いものを飲むように見えるのか?」
「全然!!糖類ゼロで砂糖の入った飲み物なんて人間の飲み物じゃねぇっていうイメージ」






力を込めて言った俺に少し楽しそうな雰囲気を醸し出した尚隆は、俺の手にコーラを渡すとそのまま出て行ってしまった。



もしかして、俺の為に態々、買ってきてくれたのか?




なんだ、あいつも優しいとこがあんじゃん!!



俺は、尚隆の優しさを垣間見れたのが嬉しくて、渡されたコーラが凄く美味しいと感じた。






ちらほらと社員が出社してくる中、俺は軽く鼻歌を歌いながら半分くらいまで減ったコーラを見詰めていた。


「今日は、えらくご機嫌ですねー。何か、良いことあったんですか?」


そう声を掛けてきたのは営業事務の瀬川 知子。何かと俺に話し掛けてくる彼女だが、正直、苦手な部類だ。
視線の端々に次期社長の夫人の座を狙っている節がある。



幼い頃から、そういう人間が大勢いたから分かる。




だから、どうとかないけど……。のらりくらりと躱せば良いだけの話だし。



えへへと笑ってみせた俺は、
「内緒」
と答えペットボトルを見詰めた。


優しい尚隆なんて貴重すぎて周りには知られたくないし……。



自分だけが特別だなんて、思い上がりだけど、今は、そう思っていたい。

何で、そう思うんだろう?





「寿さんも大変ですね」



「何が?」

「だって冷徹の瀧川さんに指導されて殆んど毎日、会社に泊まってるじゃないですか。皆、言ってますよ。『社長のご子息にやり過ぎだ』って……」



社長のご子息……。
その言葉が俺は好きじゃなかった。


肩書きを無くしたら自分の存在なんてなくなるような気がして……。




俺は、溜め息を吐く。


「瀧川は、そりゃ鬼みたいに厳しいけどさ。ちゃんと俺に実力付けさせてくれてるからね。まぁ、もう少し優しかったらとか思うけど、凄く優しい瀧川って想像付かないし今のままでも良い気がする。
だから、大変は大変だけど嫌じゃないよ」



「なんか瀧川さんに恋でもしてるみたいな言い方ですね」

「えっ!?まさか!!俺、男だし瀧川も男だよ?それに俺、女の子が好きだし」


「ヤだなー。冗談ですよ」


キャッ、キャッと笑う瀬川に「からかわないでよ」と笑いながら俺は自分の気持ちを自覚する。




俺、尚隆が好きなんだ……。


自覚すると何か妙にスッキリしてきた。




 
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