短編

□売れない人形
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「はい、これで全部」

「あぁ。やはり君が作ったものは出来が良いね」

僕がそう言うと、目の前の少女――アリスは少し顔を赤らめ、褒めても何もでないわよ、と言っている。
最近、アリスの作った人形を人里で売ってみた所予想以上の好評を得た。
今回もアリスに頼み大量の人形を作ってもらい、それを今日届けてもらったのだ。

「本当はもっと早く来れる筈だったんだけど……あの雨だしね……」

「いや、構わないよ。期日には間に合っているし、質も申し分ない。十分だよ」

「良かった。……あ、あと……」

「ん?」

「こ、この雨で来れなかったから、その時間に作ってみたの、コレ」

言って、アリスが差し出したのは――

「僕の……人形?」

アリスが差し出したのは、高さ三寸(約9cm)程の、手乗りサイズの僕を模した人形。

「えぇ。売り物には出来ないでしょうけど、飾ってくれると嬉しいわ」

「そうか……なら、これはありがたく非売品にさせてもらうよ」

そう言って、差し出された人形を非売品の棚に置く。

「……さて、じゃあこれが今回の分。また頼むよ」

アリスに封筒を差し出し、そう告げる。

「ええ。じゃあ、私はこれで……」

「あぁ、待った」

「?」

「君に渡そうと思っていたものがあったのを忘れていたよ」

「何?」

「……ほら、コレだ」

言って、アリスにあるモノを渡す。それは――

「私の……人形?」

「君の人形を見て見様見真似で作ったものだけどね。……どうだい?」

「嬉しいわ。……凄く」

それは良かった。と思っていると、アリスは、でも……と前置きし、続けた。

「これ一つだけじゃ、寂しいわ」

「ふむ、確かにそうかもしれないな」

「でしょ?だから……」

だから……と言いながら、アリスは僕が作った人形を非売品の棚に持っていく。

「こうすれば、寂しくないわ」

言って、僕を模した人形の横にそっと置いた。

「あぁ、そうだね。これなら寂しくない」

そう言って、互いに少し黙ってしまった。
無言が空間を支配する。
こんな時は、どんな小さな声も耳に届く。
僕の耳に、途切れ途切れだがアリスの声が聞こえた。

「私達も……」

「ん?」

「私達も、この人形みたいに、ずっと、一緒に……」

「……なんだって?」

とても小さな声だったために、最後のほうがよく聞き取れなかった。

「な、何でも無いわ!それじゃ!」

「あ……」

そう言い放ち、アリスは店を出て行ってしまった。

「……なんだったんだ?」

何が彼女をそうさせたのかはわからなかったが、寄り添う二つの人形を見て、まぁいいかと思った。

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