記念小説
□花の結ぶ先
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私は招待状に書かれていた通り、薔薇園へと向かう。進むたびに薔薇の芳醇な香りが鼻をかすめる。そして、色鮮やかな薔薇園へ私は足を踏み入れた。風が香りを一面に広げ、人々の鼻孔へと届ける。まるで人の鼻孔はポストのように、薔薇の便りを受け入れている。いつ来ても素晴らしいな、と私は思った。
「玲ちゃん!」
向こうからツインテールの女の子が走ってくる。私は手を振った。ツインテールの女の子、リイルは私の手に触れる。彼女の手は温かくもどこか冷たさが感じられた。
「早く早く、インティゴもいるよー」
リイルは私を奥へと引っ張った。奥には蒼い髪の男が見える。リイルは純白の裾にフリルがついたワンピースを着ていた。上には短めの茶色いベストを羽織っている。ワンピースは薔薇の紅と対照的に眩しく見える。彼女によく似合っていた。
「インティゴー」
リイルは私と一緒にインティゴの前に立つ。イヤホンから軽快なアップビートの音楽が音漏れしていた。インティゴは私に目をやり、片方のイヤホンをとる。
「久しぶりだな、玲」
「2人とも久しぶりね」
私はそういいながらお茶会のセットを探す。しかしセットは見つからなかった。
「さ、玲ちゃんが集まったし始めよっか」
リイルは意味深な笑みを見せた。風が強くなる。薔薇の花びらが複数、辺りに散らばった。
「あのね、玲ちゃんごめん。リッちゃん嘘ついちゃった。お茶会なんて嘘なの」
「は?」
私は一瞬だけ呆然と立ち尽くす。
「本当はね、もっと別の目的があるの。ごめんね」
リイルは目を潤ませながら私に近寄った。どうしよう。とりあえず私は笑顔を作った。
「いや、いいのよ。で、別の目的って何?」
「ありがとう玲ちゃん!目的はね、スカイと玲ちゃんの仲を協力してあげようと思って」
リイルの直球すぎる言葉に、私は顔がまた熱くなるのを感じた。
「遠慮するわ。それくらい自分でけじめをつけるもの。あなた達には関係ないでしょう?」
私はあえて冷たく言い放つ。しかしリイルはいきなり耳元で囁いてきた。インティゴのイヤホンから漏れる音は、いつの間にかバラードに変わっている。
「でも玲ちゃん、どうせ自分で告白出来るいい雰囲気に出来ないでしょ?」
リイルのどうせという言葉に少々苛立ちを覚えながらも、残念ながら事実である。この前のクリスマスも、自分から突き放してしまったのだ。
「リッちゃん達は玲ちゃんをからかいたくてこんなことするんじゃないんだよ。玲ちゃんのためを思ってやるんだよ」
私は昔、つまり人間だった頃から友達が少なかった。なので、あなたのためという言葉には少々弱い。リイルの声には少しだが、優しさが含まれているように思えた。薔薇の香りがまた私を包む。ここまで言われて、この優しさをコケになんて出来ない。
「わかったわよ」
「ありがとう!」
リイルは私に思い切り抱きついてきた。こうして私の覚悟は決まったのであった。