記念小説
□花の結ぶ先
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視界が真っ白く開けていく。私は異世界の地に足を下ろした。着ているいつものベストの制服が揺れる。さて、今回私が落とされた地は……どこかの部屋だった。綺麗なシーツにくるまれた温かそうなベッドに、壁には上品な絵が飾られている。落ち着いた色のタンスに、綺麗に磨かれた鏡。どう考えても金持ちの家だ。しかし、家に落とすなんて長はどうかしてる。ちゃんと事前に注意したのに。私は思わずため息をつく。すると、いきなりドアが開かれた。
「え、嘘?」
高めの声に私は声の主を見つめた。赤毛にてっぺんのアホ毛と可愛らしい顔立ち。
「スカーレット王子?」
「玲だよね!」
それはまさしくこの世界の王子、スカーレットであった。スカーレットは玲に笑顔で駆け寄る。私も笑顔になった。
「なんで玲が僕の部屋にいるの?僕もお母様も呼んでないのに」
「ここ、王子の部屋だったの?私は長に落とされただけよ」
全く、余計なことをとでもいうべきか。私は天井を睨みつける。
「まあいっか。僕達これからごはんなんだ!玲も一緒にどう?」
「でも私、リイル達に呼ばれたんだけど」
その言葉に、王子は一瞬暗い表情を浮かべた。私、何かまずいこと言った?私が心配していると、スカーレットはまた笑顔に変わる。
「そっか。ちょっと寂しいな。でもリイル達に呼ばれたなら早く行かなきゃね!」
スカーレットは私の手を軽く握り、門へ連れて行った。1人でおいて行かれたら確実に迷ったと思われるため、かなり助かる。スカーレットの手のひらは柔らかく本当に女の子のようだが、その傍ら王子として未来はみんなを引っ張っていくようなリーダーシップが感じられた。門の前に着くと、スカーレットと繋いだ私の手がほどかれた。
「じゃあ、良かったらまた来てね!」
「うん。だからスカイには私が来てること、秘密にして貰えない?」
「分かった!」
スカーレットはにこにこと笑いながら、手を振る。理由も聞かずにスカーレットは私のお願いを受け入れた。スカイには、自分から会いたかったのだ。私はスカーレットのその笑顔から沢山幸せをおすそ分けして貰った。私も手を振り、私は門をくぐる。まだ空は明るい。その色は水彩画のように淡い水色であった。