記念小説

□花の結ぶ先
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薔薇の香りが鼻孔に届き、インティゴはくしゃみをした。かすかに赤い鼻をこすり、ずれてしまったイヤホンを直す。イヤホンからは軽快な音楽から一転、バラードのような音楽に変わった。インティゴはそのゆったりとしたメロディーに身を任せ、目を閉じたその時。

「インティゴー」

甲高い声とともに背中にのしかかる重み。インティゴは思わず奇声を上げる。正体は振り向かなくても分かる。

「リイル……」

インティゴの弱った声を聞いても、リイルはインティゴの背中をどこうとしない。背中に押し付けられた大きめの胸にも、インティゴは全くときめきを感じなかった。

「ね、インティゴはスカイの親友だから知ってるよね?」

「何がだよ」

「スカイの好きな人!」

インティゴはその言葉によろけそうになる。

「はあ?」

「え、もしかして知らないの?」

リイルは長い睫毛に縁取られた目をしばたいた。インティゴはそんなリイルを睨む。

「ほら、何度もお茶会で見てる異世界人の早坂玲ちゃんって子だよ!それでね、あの後スカイと玲ちゃんが2人っきりで出ていったじゃん。あれ絶対告ったってー」

こういう話を笑顔でするリイルはやはり女の子なのだろう。しかし、インティゴは眉をひそめる。

「リイルは、スカイに告白なんて出来たと思う?」

「あはは、さすがインティゴ。リッちゃんそんなこと思ってるわけないじゃん。玲ちゃんも多分インティゴと同じツンデレでしょ?だから実は両思いでもくっついてないって」

「だからツンデレってなんなんだよ!」

インティゴは心からの叫びを発する。リイルはまたけらけらと笑った。

「ま、インティゴは知らなくていいよ!天然ツンデレなインティゴがリッちゃんは好きなんだから」

インティゴはリイルの可愛らしい笑顔をまた睨む。

「だからさ、リッちゃんは2人をくっつけるように協力したいんだよねー」

「やめとけ」

リイルの言葉をインティゴは遮る。インティゴにとってはスカイの目が女に向けられるようなことは嫌であるとともに、リイルがこういうことに関わると絶対仲をこじれさせる、と思っていた。しかしリイルはこれで諦めるような女ではない。

「そういえばインティゴが好きなバンドの新しいアルバム、出るんだっけか」

インティゴはそのリイルの一言に反応する。ファンである自分が知らなかったという事実に少し落胆しつつ、リイルを見返す。リイルは舌で唇をなぞった。

「もしインティゴが協力してくれるなら、リッちゃんがそのアルバムの初回限定版を買ってあげてもいいんだけど……」

その言葉にインティゴは少し悩む素振りを見せた。そしてリイルを背中から下ろし、肩を掴む。

「協力します」

リイルは掴まれた肩に対して頬をほんのり赤く染めながら、「ありがとう」と笑う。もう一度、薔薇の香りがインティゴの鼻に届いた。
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