記念小説
□1日だけの魔法
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しかし、降りたのはこの前来たところとは全く違う場所であった。この前の並木道ではなく今度は大きな芝生。辺りには草以外何もない。私は握りしめていた招待状を開く。地図などどこにも書いていなかった。ここはどこなの? また、アギとか王子の仲間が来てくれればいいのに。そう思っても仕方ないので、私は勘を頼りに歩き出した。本当に草しかない。
歩いていくうちに大きい影ができている場所に差し掛かり、その右側には小さな小屋を見つけた。私はそれを目指して歩く。
小屋に到着するも何もない。私は小屋の壁にもたれかかる。疲れた……。
「おやおや」
幻聴まで聞こえるようになったのか。こんな所で助けてくれる人などいるはずもない。
「こんな所で人を見るとは初めてかもしれません」
私は顔を上げた。見るとそこには懐かしい紅い目の男。この前の調査対象が立っていた。
「もしかして、貴女は早坂玲さんですか?」
「スカイ?」
男の名前を私は呟いた。無表情な男の顔が少し和らいだ気がする。
「やはりそうでしたか。王子がパーティーに招待したようですが……何故このような場所へ?」
「こっちが聞きたいわよ」
なんでこんな場所に落とされなきゃいけないのか。そして何故スカイが来るのか。正直苛立ちは限界にきていた。
「この小屋はお城の食料庫です。この芝生はお城の裏庭でして。つまり、ここは全てお城の敷地内なのですよ」
「はあ?」
長は城の敷地内に私を落としたというの? しかも何故裏庭。何故正門に落とさない。長への苛立ちは次第に大きくなっていった。そして溜息をつく。この城は広すぎる。
「まあこの城はすごい広いし裏庭に迷ったら出て来れなくなるレベルなんだよな」
スカイが呟いた声が聞こえた。迷ったら出て来れないレベル……。流石王子は金持ちだと言うべきか。
「では玲さん、一緒に行きましょうか」
スカイが食料庫を開け、大量のフルーツを持っていく。私はスカイについて行くことにした。
空はまだ青い。しかし私が迷ったせいというより長が変な所へ私を落としたせいでもう相当な時間が経っているような気がしていた。