記念小説

□1日だけの魔法
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ある日のこと。もうすっかり寒くなり、空は寒さでより澄み切っているようだ。その中を蜻蛉かたくさん飛び交っており、こんなに寒いのにまだ秋なんだなと感じた。暦の上では立派な秋である9月後半。街は黄色と橙色に染まり始めている。紅葉の季節にはまだ少し早いのに。何かイベントでもあっただろうかと街のショーウィンドウにちらりと目をやった。そこには黄色いカボチャのお化け、ジャック・オ・ランタンがちょこんと置いてあった。そのガラスの中の文字の形をした黒い装飾にはこう書いてある。
HALLOWEEN。
そうか。9月だというのにもうハロウィンの準備が始まっているんだ。だから街はいつもより明るく染まっている。
でも、思った。ハロウィンはアメリカの行事であるのになぜわざわざ乗っかって祝うのか。ここでは夜子供は歩いてお菓子をもらうことはしない。せいぜい祝う人でも親が子供にお菓子を買い与えるだけだったりするのではないだろうか。バレンタインもだし、クリスマスも結局はそうだ。なんでわざわざ……。
家に帰り、ふと母に聞いてみた。

「なんでハロウィンって祝うのかな?」

母は私をちらりと見やり、こう言った。

「雰囲気でしょ」

そうか、と思う。棚の上には既にプラスチックでできたジャック・オ・ランタンが飾ってあり、我が家も色が明るくなった気がした。
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