番外編

□黒の不協和音
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***


俺の前に見える光。
すぐに飛び込んだらいいのに、飛び込む勇気が出せない。
闇が迫る。
手足を捕られる。
身動きが出来なくなる。


もう一度だけ。


俺は何度でも繰り返す。
自分自身が納得するまで、誰かが俺を必要としてくれるまで。
俺が零す言葉すべてに意味を重ねながら。
感情のない言葉に、意味を刻みながら。


まだ?


あと少し。


俺が行く道が見えた。
あそこへ行けば、きっと楽になれる。
息を止める。
苦しい。
足掻く。
意識が飛びそうで。
飛んだらすべてを失いそうで。


もう一度、
俺をこの世界で生きさせて欲しい。


今頃になって気付いた。
過去のことを誰かに話せない。
自分の感情を表に出せない。
不器用で、鈍くて、慎重過ぎて。


でも、
俺のすべてを受け止めてくれる人が、たくさん周りにはいた。
だから、俺は余計なことを考えずに過ごすことが出来たんだ。


しかし、遅いことに変わりはない。


俺の終わりは近い。


目を閉じた。


その時、
腕に温かさを感じた。
同時に力が篭る。


誰かに引っ張られ、俺は走り出した。
背後から感じる闇の感情。
何も気にせず、俺を引いて走る大切な人。
この力を、ずっと感じていたくなった。
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