光を詠う物語
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ある日いきなりマイソロ世界にトリップして、なんだかんだで1週間。
この船での生活もだいぶ慣れてきた。
まだ人には慣れてないけど……嫌ではないから良いと思う。
「はぁ……良い風だなぁ……」
そして最近の趣味は、展望台で窓を開けて風を感じること。
これがなかなか気持ち良い。
自然と頭に浮かんだメロディを口ずさみ始めた。
気分が良い時はいつもこうしていた。
それはこの世界にやってきても相変わらずだった。
++はじめましての挨拶を
そういえば、私はクリア後の世界にトリップしてきたんだった。
それはこの船での生活が始まって、すぐに判明したことだった。
だって、メンバーが全員揃ってたし、何より世界の雰囲気が、多少のいざこざはあれど平和そのものだったのだ。
てことは、やっぱりあの子にはもう会えないのかな……。
あの子とは、このゲームのラスボス、ゲーデのことだ。
世界が危機に瀕するのは嫌だが、密かに会えないか楽しみにしていたのだ。
だからなんだか残念だ。
メロディを止め、ふぅと息を吐く。
さわさわとした風が心地よくて、寂しい。
なんて一人で勝手にしょんぼりしてたら、コンコンとノックする音がした。
一瞬、びっくりした。
き、聞かれてないよね……?
歌うのは好きだけど、聞かれるのは恥ずかしいから激しく嫌なのだ。
だって私は歌手じゃないもん。
「メグミ、今いいかな?」
「うん、どうしたの?」
入ってきたのはカノンノちゃんだった。
なんかどことなく落ち着きがない。
なにかあったのかな?
「あのね、前にディセンダーのお話したでしょ?」
「うん」
確かこの船に来てなんとか落ち着いてきた時に、彼女が話してくれたのだ。
そう、ディセンダーの伝説と、あのゲームでのお話を。
知ってはいたけれど、実際に当事者から話を聞くとまた違って感じられた。
「それでね、帰ってきたの!そのディセンダー達が!」
「そうなんだ……、」
ああ、それで落ち着きが無かったのか。
カノンノちゃんはずっとディセンダーの帰りを信じて待ってたんだもんね。
………って、ん?「達」?
確かディセンダーって、一人じゃなかったっけ?
そう疑問に感じたのも束の間、カノンノちゃんは一旦展望室から出るとすぐそこに待機していたディセンダー達を連れてきてくれた。
白銀の髪に青い瞳の少年と――――――紫の髪に赤と金のオッドアイの少年。
そんな、まさか、
どくん、と胸が高鳴っていく。
ああ、間違いない………ゲーデだ。
あの特徴的な右腕は普通の腕になっていた。
感情がすぐ表に出なくて良かったと、この時ばかりは心から安堵した。
でなければ、嬉しすぎて今頃にやけまくっていただろう。
初対面で怪しい奴だなんて変な印象持たれたくない。
「ディセンダーのシエルと、ゲーデだよ!」
カノンノちゃんに促されて二人……否、シエルくんが一歩前に出てニコリと笑った。
「はじめまして、僕はシエル。これからよろしくね」
「はい…私はメグミです。よろしくお願いします」
ポーカーフェイスが得意(というには語弊があるが)な私といえど、その輝かんばかりの眩い笑顔は直視できない。
とりあえず不自然に見られないように、ペコリとお辞儀をした。
「…ほら、ゲーデも」
「…………、ゲーデだ…」
シエルくんの後ろでそっぽを向いたままだが、彼…ゲーデくんも挨拶をしてくれた。
なんかやっぱり可愛いなぁ…。
見ているだけで心がほっこりする。
うん、それだけでもう十分満足だよ。
「二人とも、よろしくお願いしますね」
今日からこの船での生活が、また一段と楽しくなりそうだった。
(はじめましての挨拶を)
(そして新しい生活ははじまった)
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