光り輝く物語

□おそろいの瞳
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 夜の海は静かだ。
 近くて遠い波の音と吹き抜ける潮風の音しかしない。
 今夜は雲一つなく、空気もとても澄んでいる。
 夜空は大小様々な星が瞬き、見事な満月が柔らかく照らしていた。
 その光は暗い海にまで届き、海面で反射して別の輝きを放っている。

 この世界は、とても綺麗だ。

 溢れていた負も徐々に浄化され、世界はまた平和な時を取り戻していた。
 少し前まではこんなにゆっくりと夜を過ごすことはなかっただろう。

「……ロア」

 遠い水平線を眺めていたロアを小さな声が呼ぶ。
 甲板の入り口に、少し思いつめたような顔をした青年―――ゲーデが立っていた。
 ロアはふわりと微笑み、隣に来るようにと手招きをした。



++おそろいの瞳



「………」
「……」

 夜の静寂が二人を包む。
 ロアは何も言わずにただ海を眺めていた。
 ゲーデもまた一言も話さずに、隣に立って同じように海を眺めていた。
 断続的に響く波の音は、とても安心できる音色を奏でている。

「……あの、さ…」

 沈黙を破ったのは、控えめなゲーデの声だった。
 ロアは彼のほうを向き、どうしたの、と視線で続きを促す。

「その………瞳…のこと、なんだが…」
「瞳…?」

 瞳がどうかしたのだろうか。
 ロアはきょとんと首を傾げる。
 ゲーデはどこか気まずそうに視線を落とし、再度彼を見据えて震える唇を開いた。

「瞳の色……変わったの、俺のせいだろ…」
「………」

 ロアの瞳は、もともと澄んだ空のような青い色をしていた。
 だが、暴走したゲーデの負を取り込み浄化した際に、朝焼けのような紫と深い夕焼けのような赤に変わってしまったのだ。
 とはいえ変化したのは見た目だけで、視力が落ちたわけでもなく、日常生活や戦闘でまったく支障もないので特に気にはしていなかった。

「その……、ごめん…」
「……」

 とても痛そうで、辛そうな顔をするゲーデ。
 彼はそれが自分のせいだと自身を責めてしまっているようだ。
 こんな顔をさせるために彼をこの世界に連れてきたわけではないのに……。
 大丈夫だよ、と言っても恐らくもっと辛そうな顔をさせてしまうだろう。

“君のせいじゃないんだよ”
“君が背負うことではないんだよ”

 どうしたら、伝わるだろう。
 意地っ張りで我侭で生意気で、でも本当は酷く純粋で人見知りで臆病な彼に。



「……おそろい」
「…え?」
「ゲーデも片方の瞳が赤、だからおそろいだね」

 そう言って、ロアは笑う。
 月明かりの下で、まるで月のように。

 おそろい。
 瞳が変化したのは誰のせいでもない。
 だから、君も笑って。

 そんな言葉を込めて、彼に笑いかける。


「……ありが、とう…」
「!」

 小さく、本当に些細にだがゲーデが笑った。
 ロアは先ほどよりも嬉しそうにまた笑い返した。




 夜の静寂が再び二人を包み込んだ。
 それっきり会話はぷつりと途切れ、彼らはただ海を眺めている。
 不思議とこの時間は居心地がとても良い。

 月はさらに遠くへと行き、星が消えては新しく生まれていた。

 この世界は、とても綺麗だ。






Fin....

++
初SS…!
ロアの瞳について
シリアスになってしまったが書きたいこと書けたので満足です

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